Alice In Wonder 裏 ―アリスと王様のあまいお茶会―

 
 「あ、あの……キレネンコさん……?」

 お茶の準備は、と戸惑うプーチンを腕の中に囲った相手は聞こえない素振りで唇を落とす。頭の上の長耳があってもなくても、都合の良い事しか聞かないらしい。余計なことを言う口を塞いだのが一応の答えなのか。
 柔らかく口付けた先が拒まないの了承として、キレネンコが深く、舌を差し込む。腕の中一瞬硬直した体は、それでも逃げることをせず、おずおずと自分からも舌を伸ばした。

 「んっ……ふ、……っ」

 手を添えた顔が、熱い。慣れていないながらもと賢明に応えようとするプーチンに、キレネンコの内側へ温かいものが増した。
 ほんの一瞬前まで感じていた、どうしようもない落胆も失望もない。思いがけず手に入った、幻の靴―――夢か現か、伸ばした手にそれは確かにあった。そして、差し出した相手の笑顔も、目の前にある。

 欲しかったもの両方を前にして、冷めたままで居られるわけがない。

 表情だけは変わらず無表情のまま、台所に行こうとするエプロン姿の背をキレネンコが引き寄せたのは、当然の心理だった。夜まで待とう、と立てていた予定をあっさり捨てた彼はそれが適切な判断だったと知る。
 まだ明るい室内では、相手が良く見える―――目じりを染めた泣き出す一歩前のような顔も、それより下に広がるふわりとしたエプロンドレスの端も全て、目に納まる。
 唇を軽く食んで、呼吸もそぞろになった相手の手を掴む。すっかり力の抜けていたプーチンは引っ張られる手が導かれた先、触れた熱に跳ねた。
 見開かれた目へ、キレネンコが薄く笑う。その赤い瞳へ悲しみではなく揺れる欲情を見つけたのは果たして良かったのか―――プーチンに判断はつかなかったが、重ねた手が押し付ける先の昂ぶりへ、彼はそろり手を這わせた。
 手よりもずっと大きい、すでに熱を持っているものを包み込む。遠慮がちに上下に扱くと、耳元へ吐息が降りかかる。触れているものと同じくらい熱い息に、プーチンは思わずギュッと目を閉じた。

 手の中で変わっていく形は自分の物ではないのに、羞恥を覚える。いや、人のだから恥ずかしいのか。

 部屋へと響く濡れた音が。感触が。目を瞑っても突きつけられる行為の状況に、一層恥ずかしさが沸き立つ。それを誤魔化すよう、指先に全意識を集結させる。
 真っ赤になりながらも無心に手を動かすプーチンの姿は、キレネンコを満足させるに十分だった。たどたどしい手つきは、決して上手いとはいえない。けれど直接的な刺激より眼下で恥らいを見せる恋人そのものに下肢が熱くなる。
 すぐさま組み敷き犯したい―――その衝動を堪えながら、ブラウスに手をかける。押さえ込むキレネンコの手が放れても、昂ぶりを握る手は解かれなかった。
 露わになった首筋へ顔を埋め、痕を残しながら胸元へと滑る。しゅるり、と結んだエプロンのリボンを解いて露にさせた向こうに、当然揉める柔らかな胸はない。
 それで構わない―――肉質な感触がなくても、滑らかなきめ細かい肌は心地良い。差し込んだ手へしっとりと馴染み、本人にそのつもりがなくてもより袂深くへと誘い込んでくる。
 その先にある小さな尖りへ指を伸ばせば、その辺の女より余程艶を感じさせる嬌声が響いた。

 「ふぁっ、あっ!やぁ、んっ……っ!」

 キュッと指先で摘み上げると、過剰なまでに体が跳ねる。捩る身を捕らえたまま、クリクリ指で弄り、捏ね回すとあっという間に硬く芯を持つ。
 淡い色から一転、顔同様赤く熟れた粒に惹かれるよう、指とは反対の方を唇で食む。軽く歯を立てて噛み解せばふわり甘い芳香が漂ってくるようで、惑わされるまま益々強く吸い上げた。

 「ひぁっ……!やっ、だ、めっ……んっ!」
 「手、止めるな」
 「あっ、ぁ……ごめんな、さ……ぁふっ!」

 いつの間にか沿わせただけになっていたプーチンの手をもう一度上から握り込み、適度な強さで動かす。細い指に扱かせる自身は既に十分な硬度を持って勃ち上がっている。

 ―――少し前言われた、ふざけた発言はこれで真っ向から否定されたわけだ。

 腰に走る甘い疼きに若干息を荒めながら、キレネンコはなすがままになっている相手の耳朶へ唇を寄せ囁いた。

 「……EDなんかじゃないって事を、教えてやる」
 「んっ!え、やっ……な、なに……?」

 胸を弄る手とにちゅにちゅ響く先走りの音に気取られて聞き逃したプーチンに、仮に再度教えても意味は理解できまい。ガクガクとしている体を支えるのに精一杯なその頭は、胸の愛撫だけですっかり熱に浮かされている。
 蕩けた緑の瞳は、一層キレネンコに渇きをもたらせる。潤いを求める口内が、熱い紅茶でなくて何が欲しいか―――知っている彼は、縋りつく体をソファへと押し倒した。
 沈み際当たったテーブルからカップが落ちる。カシャンッと鳴った音にプーチンの意識が向きかけるが、それを許さないように首筋へ噛み付く。
 「ちゃんと見ていろ」と命じれば喘ぎの止まらない顔はゆるく声の方へ戻る。従順な姿勢に一つ、褒美の口付けを落としたキレネンコは濡れた手を赤髪に巻きつかせたまま、望む場所を目指して頭を下げた。
 レース付きのスカートをたくし上げ、白黒の布地に包まれた脚を辿る。奥まで行き着いた彼は、布の下で密やかに笑った。

 「ココまで揃えてるのか」
 「!!ちがっ……!これ、僕が着たわけじゃっ、あっ!」
 
 言い訳は聞かずに薄い下着を剥ぎ取る。触ってもいないのにのに蜜を零しているものに、乾いた喉がゴクリと鳴る。手が離された自身に血が集中するような気がした。
 本能の赴くまま、大きく開いたキレネンコの口が、パクリとプーチンを咥える。スカートの外側で悲鳴のような高い声が上げられるのに構わず、搾り出すように強く吸い上げる。口の中に広がる雫は本物の蜜のように甘い。とろとろ溢れてくる液を舐め、もっとと窪んだ穴を舌先で抉ると、プーチンが激しく腰を揺らした。

 「ああっ!やぁっ、んっ!ダメっ……そんな、したらっ……ぁあんっ!」

 ダメ、と閉じらる脚を押さえつけ、柔らかな双丘を撫でる。すでにひくついている入り口へ指を一本、ぐっと押し入れて一番感じる部分を擦り上げると、男を知っている身体は敏感に反応を返した。
 萎まる内を裂くように、差し込む指を増やしていっても上がる声に苦痛は混じらない。布地の向こう漏れ聞こえる拒否の言葉は聞き流しながら、奥へ引き込もうとする内部を長い指で突き上げる。
 敏感な部分全てを包む熱くぬるついた口内の感触と、深い場所をかき回される指の前に耐えることなど出来ない。身を捩っていたプーチンが、赤髪を引っ張る―――離れるように促してくる手とは逆に、花芯を挟む唇がキュッと先端を吸った。

 「ひっ―――ぁ、あああーっ!」

 一瞬。びくんっ!と仰け反った背が、吐き出す熱に合わせて徐々に沈んでいく。吐精に虚脱する体の下方、もぞりキレネンコがスカートから顔を出した。顔を近づける相手の、その喉元がゴクン、と動くのを見て、絶頂に蕩けていたプーチンは潤んだ目を大きく見開いた。

 「あ―――だっ、ダメです、そんなの飲んだらっ!」

 ひどく慌てた様子のプーチンに、精を飲み下したキレネンコは表情を変えないで「何故」と尋ねる。
 むしろ、飲めるならもう一、二回飲みたいくらいなのに―――平然と引き抜いた指まで舐める相手に、見せ付けられるプーチンは真っ赤になる。エプロンの裾を掴みながら、彼はしどろもどろに言った。

 「だ、だって……病気に、なっちゃう……」
 「…………」

 本気か冗談か、多分前者だろうその言葉を信じるなら、かかる病はДиабетだろうか。

 ジャムを添えたお茶よりも濃密で、砂糖をまぶした菓子よりも甘い身体を食べ続けていれば、確かに糖分の取りすぎになるかもしれない。仮にそうなったとしても、放すつもりはないけれど。
 駆け出した後ろを追いかけてきた手を、こちらから掴んで引き寄せて。もう一度、強く抱き込んで。終わりのないお茶会のように、ずっとその身体を味わい続けていたい。

 今日が何日かなど関係なく、幻想の世界に二人で留まれば良い。堕ちているのか昇っているのか定かでない場所の行き着いた先―――共に居られるなら、どこであっても同じだ。

 最早テーブルの上に置いたスニーカーすら、意識の中から消えた。可愛いことを言ってくれる恋人だけ赤い瞳に映したキレネンコは、濡れた唇へ齧りつく。浅く零れる吐息すら、甘い。
 まだまだその甘さを堪能したいが、身体の方にその余裕がない。甘い気持ちとは裏腹に下半身は痛いくらい張り詰めている。早く目の前の身体に埋まりたいと、ドクドク脈打っている自身はもう誤魔化せそうにない。
 陶然とした様子で口付けを受けるプーチンの脚を抱えたキレネンコが、解したばかりの蕾へ先端を擦り付けた。意図を読みとった目が、一瞬怯えを見せる。
 何度経験しても、この瞬間に慣れはこない。
 見上げてくる緑の瞳へキレネンコはあやすように口付け、そっと、腰を沈めた。

 「んっ……ふ、ぁっ……あっ……!」

 小さく喘ぐ声を耳に、性急にならないようゆっくり押し進む。本来受け入れる機能を持っていない器官は狭く、焼け付くほどに熱い。一気に突き入れたいという本心を抑えるのは中々至難だったが、こればかりは急ぐわけにはいかない―――傷つけたくは、ない。
 滅多にかかない汗を額に浮かべて、長大な雄全てを内へ納める。辿り着いた最奥に動きを止めたキレネンコは、思わず息をついた。
 きゅうきゅう締め付ける肉壁の圧迫は強烈で、ともすれば暴走しそうだ。
 柳眉を寄せた彼は、自分以上に苦しげな顔をしているプーチンを撫でた。ゆるり開いた潤んだ緑の瞳に、劣情に歪んだ顔が映る。
 ―――大人しい兎でもましてや理性ある善王でもない剥き出しの獣の自分を、この目は一体どう捉えているのか。

 「……力、抜いてろ」
 「は、ふっ……ぅっ……」

 短く告げるキレネンコに、返事の出来ない口の代わり、震える手がぎゅっとしがみ付いてきた。尋ねなかった問いの答えも、それで十二分に伝わってくる。
 健気に受け入れようとする体躯を抱き返しながら、猛りをギリギリまで引き抜く。絡み付いてくる内側へ応えるよう、再び押し広げて根元まで挿れる―――そんなゆったりとした抽送を繰り返して次第に動きを早めていく。
 繋がる箇所から水音が響くようになった頃には、激しく突き上げてくる腰へプーチンの方から脚を絡めてきた。

 「あぁっ、やっ、あっ……!はぁっん!イッ……!」
 「っ……イイ、のか?」
 「んっ……!ぁ、う……っ」
 「イイなら、そう言え」

 思わず言い淀んだ快感の言葉も、鼓膜を犯す低い声に囁かれ、溶け出るように漏れる。

 「ひっぁ……!んぁっ、イイっ!気持ち、いっ……!ぁあんっ!」
 
 熱い内の、そこ、と言う場所をねだられるまま、固い先端で深く抉ってやる。ぐちゅぐちゅ音を立てて掻き混ぜると悶絶する肢体に、揺さぶるキレネンコも限界が近い。
 清楚な色合いの衣装を肌蹴させ腰を揺らす様は倒錯的で、興奮に血が沸き立つ。一度達していながらもまた天を向いて打ち震えている花芯も、情欲を煽った。


 この乱れる姿は。自身を包み込む身体は。決して、夢なんかでは、ない。


 腰を強く打ちつけながら、勃ち上がっている物に指を絡める。どちらも一度に攻め立てると、小さな恋人アリスは甘い蜜を噴出した。

 「やっ、あっ、ああぁーっ!」

 ぎゅうっ、と。手の中の物が飛沫を上げると同時に、襲ってきた一番強い締め付けに最奥へ突き入れたキレネンコも、耐えていた自身を弾けさせた。
 注ぎ込まれる熱にビクビクと痙攣している体を抱き締める。服はもう使えないかもしれないな―――着たままのエプロンドレスは体液でドロドロに汚れ、次回の楽しみに使えるかは不明だ。
 駄目もとでも洗濯するよう言っておこう、という考えはとりあえず黙ったまま、まだ喘いでいる唇へ口付ける。
 混ざり合う雫は、やはりどんなお茶よりも心を潤わせる。


 塞いだその口から「卵、特売日……」と執念の言葉が言われるまで。
 二人きりのお茶会は、続く。


 

 Well…Which of Red King and Alice did the checkmate?

 さて、チェックメイトを仕掛けたのはアリスと王様、どちらでしょう?


 



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2010.08.08
表のアリスパロで。
Диабет=とーにょーです。