夢見るコトリ。

 
 「ひっぁっ……んっ、だめっ……!」

 胸に埋まる頭を掻き抱いて、プーチンは激しく身悶えた。
 硬くなった尖りへ感じる、舐める舌が。甘く噛む、歯が。強く吸う口に、目の前が真っ白になる。
 右と、左と。
 両の胸へ同時に感じる熱い口淫は、普通なら絶対にない。両手でそれぞれの赤髪を引きながら、強すぎる刺激に緑の瞳から涙が零れた。
 執拗なまでに舐められ、赤く膨れ上がった胸の頂点二つの他も、白い身体の至る所に赤色が散らばっている。
 首筋から肩、二の腕、わき腹も引きつる様に震える腿も。痛々しいほどに浮かび上がる、紅い華。
 二人分の執着を小さな身一つに植えつけたそのプーチンを、捉える腕は離そうとしない。

 クス、と笑う気配はどちらだったのか―――歪んだ視界で捉える口元は、どちらも弧を描いている。

 髪型で見分けようにも長い赤髪は揃って背に流れ、おまけにピンをつけた耳を覆い隠してしまっている。端正な顔へ付いた傷跡すら同じな顔を、ぼぅと熱に浮かされた頭で判別するのは不可能だ。
 返事を得るためどちらかの名前を呼ぼうと開いた口から漏れたのは、結局意味を成さない言葉の切れ端だった。

 「はぁっ……や、っ……やぁっん……!やだぁ……っ」

 パサパサ髪の音を立てながら首を振って、湧き上がる快感を払おうとする。だだっ子のようにしゃくりあげるプーチンへ、胸から上げられた片方の顔が耳朶に寄った。
 尖りを舐めるのと同様、ねっとりと耳核へ舌が這う。逃れようと逸らす顔を引き寄せ、妖しい光灯す赤い双眸が覗き込む。

 「……何が、イヤなんだ?」
 「んんっ!ふぁっ……」

 言葉に出来ないプーチンの代わり、答えたのは尖りを苛み続けていた口だった。

 「弱すぎてイヤ、か?」
 「なるほど……」
 「ち、ちがっ、あ、あっ!」

 見当違いの答えに納得したよう頷く横顔に、戦慄する。かじ、と強く噛まれた胸に喉を仰け反らせている隙に、勃ち上がっている花芯を大きな手が包んだ。
 既にしとどに濡れているモノの幹を握り、上下に擦り上げる。緩急をつけて施される直接的な刺激に身体は正直に反応した。
 親指で捏ねられる先端から新しい先走りが溢れる―――その間も吸われ弄られている胸元から流れる微弱な電流が、さらに下肢を追い立てる。
 気持ちが良すぎて、どうにかなってしまいそう。くらくらする頭を支えられず倒れかけたプーチンの上体が抱きとめられる。ぎゅっと抱き締められる感触に泣き濡れた瞳で見上げると、薄く笑みを刷いた唇が落ちてきた。
 下を攻め立てている手の動きとは正反対の、どこか優しい仕草で啄ばまれ一瞬力が抜ける。開いた隙間を縫うように潜り込んだ舌がゆっくりと口内を舐め、意識がとろり甘く溶けていく。
 ゆったりとした触れ合いは、好きだ―――まだ薄ぼんやり保てている意識の中で与えられる柔らかな口付けに幸福を覚える。いつの間にか弛緩しきった肉体はしなだれかかるまま、支えてくれる相手に全てを預けていた。

 「んっ、んっ……は、ぁっ―――ぁふっ!?」

 絡められる舌を自ら追いかけ、夢中で貪っていたプーチンの緑の瞳が。ぱっと星が散ったように、見開いた。

 「そっちばかり気を取られるな」

 脚の間から響く、不機嫌な声。蕩けていた目に僅か理性を戻して向けた先、若干険を乗せた赤眼とかち合った。
 慌てて言い訳を口しようとしたものの、ぴんっ、と叱咤するよう花芯を弾かれて言葉が消える。先端の小さな穴へと爪が突き立てられ、僅かな痛みとそれを超える快感に腰が浮いた。

 「んんっ!!やっ、ぁ、ご、ごめんなさっ……ひぁっ!」

 グリグリ、鈴口を抉る指に高い嬌声を上げる。一瞬前まで夢の中をたゆたっていたような状況から一転、脊椎をかける痺れに背が撓る。寄りかかっていた身を離して悶えるプーチンに尖っていた空気が少しだけ緩和した。
 最も、下肢を責められているプーチンがその事に安堵するだけの余裕はない。それどころか。

 「中、すごい締め付けてくる」
 「ああ、本当だ」
 「―――っあぁ!やっ、ゆ、指っ……うごかさ、ないっでぇ……っ!」

 つぷり、蕾へ突き入れられた指が中で蠢く。感じるしこりを突く指と、関節をくの字に曲げて掻き回す指と。奥深くまで挿れられた指が、別々の意思で好き勝手に動く。
 身体を挟んで確認するよう交わされる言葉を聞きながら、その意味の半分以上がプーチンには理解できない。思惟は再び溶け、グチュグチュ体内を掻き乱す指に全身を震わせるだけだ。
 咥え込んでいる指は三本なのか、四本なのか。もしくは、それ以上なのだろうか。
 それすら考えられず、ぎゅぅっと異物を締め付けるばかりだった後孔が、次第にしっとり絡み付く。やわやわとした肉に感じる、節のある指は確かに快感を感じるが、それ以上の刺激を知っている身体には物足りない。

 「ふっあ、ぁっ……んっ、やっ……も、もぉ……」

 欲しい―――誘うように細い腰が揺らめく。潤んだ瞳に情欲を滲ませ、指よりももっと確かな質量を求めて哀願する淫靡な姿に挟み込む二人は焦らす事をしなかった。
 体内から引き抜かれる指に小さく悲鳴が上がる。荒い呼吸を繰り返す小さな唇へ軽く口付けられたかと思ったら、そのまま脚が掬い上げられた。
 ふわり宙へ浮く爪先。逞しい腕に背後から軽々と抱え上げられ、プーチンは思わずぴくんっと緊張した。

 「あっ……」

 来る―――

 身に覚えのある熱と、衝撃と。波に浚われるような悦楽が、やって来る。

 下から自身を貫くだろう楔を想像して、羞恥に染まりながら彼は目を閉じた。
 が。少し強張った身を引き裂く熱は来なかった。代わりに抱える手が脚をより大きく左右に割り開く。
 濡れ勃つ中心もその奥で息づく蕾も全て曝け出される。一瞬戸惑うような表情を浮かべたプーチンに、のそりと正面の身体が動いた。
 腰を掴んだ相手が、身を寄せる―――ひくつく箇所にひたり熱の切先を当てられる。状況を飲み込むより早く、ズッと体内に焼け付くモノが這入ってきた。

 「ぁあっ!あっ、くぅ……っ!」

 一気に奥まで突き入れられる、熱い塊。ビクビク跳ね上がろうとする身体は、掴む四本の手に易々と押さえ込まれてしまう。
 広げられた両足の間に隙間残さず半身が埋められて呼吸が止まる。実際、繋がる身体と抱える身体とに肺が押し潰されてしまい、息が出来ない。だというのに、異物を包み込む体内はこの事態を悦ぶようにさざめいた。
 それを知っているのか、被さる身体はプーチンの息が整うのを待たずして律動を始める。離そうとしない襞から猛りを無理矢理引き抜き、熱い中を蹂躙する。

 「あっ、ひあっ!ぅ、あぁっ!」

 感じる場所を的確に抉られ、狭い空間でプーチンが身を捩った。あたかも力なく捕食される小動物のような仕草に、食べる側の二人は小さく笑う。猛禽類さながらの鋭い赤眼が震える獲物を見据える。
 物騒な二対の目を愛でるように細め、熱持つ耳朶へとそれぞれが唇を寄せた。

 「どこが、一番イイ?」
 「んっ、ぁ、あっ……ぉ、おくっ……奥が、いっ……!」
 「こっちも、好きだろう?」
 「きゃぅっ……!あふっ、ダメッ……胸、だめぇっ、んんっ!」

 ねだるまま穿たれた最奥部に背を弓なりにして悦び、同時に突き出した胸を弄られて肌を粟立てる。爪弾くよう尖りを引っ掻く指先に意識が向きかければ、それを許さないように下から激しく突き上げられる。
 少しでも自分の方へ振り向かせようと強くなる愛撫の手に、下からも同じように透明な雫零す花芯が限界だと訴えている。
 後ろの肩に頭を押し付けながら被さる首へしがみ付く愛しい存在に、赤い瞳が互いに目を合わせた。

 「―――っああ、あ、っ!」

 ガクガク容赦なく揺さぶられ、きつく胸を抓られて。言葉交わすことなく揃って指したとどめの一手に、あっけなくプーチンが弾けた。
 放出する飛沫に重なって、更に高く甘い声が上がる―――一番深い場所で大きく膨らんだものが浴びせかける熱い迸りに、白い喉が仰け反る。

 「ひっ、ぁ……はぁっ……っ、」

 天辺から爪先まで痙攣しながら、脱力したプーチンは大きく息をつく。
 漸く、終焉がきた。壮絶な快感と引き換えに心身ともにクタクタになってしまった彼は、けれどそのまま甘い倦怠に意識を飛ばす事は出来なかった。何故なら―――

 「まだ、終わってないだろ」
 「えっ……?」

 フッと含みある声に囁かれ、何が?と振り向きかけた身体へ。押し当てられる、昂ぶり。
 後ろから双丘へ触れた熱に、プーチンがビシリ硬直する。

 え―――何で?

 思わずキュッと力の篭る秘部。そこには未だ先の雄が埋まったままで、しかもそれは果てて尚ドクドクと脈付いている。粘膜から伝わる振動だけで敏感な身体は感じてしまうが、しかし彼の背が震えたのはそれだけが理由ではない。


 催促する相手が次は自分の番だと主張するのには、百歩譲って理解を示せる。身体はギシギシいっていても、精一杯受け入れるよう努力したいと思う。
 だが、覆い被さる相手が身を引き抜こうとしないこの状況で突きつけられるそれは、ひょっとしてもしかしてまさかそんな―――


 ただでさえ凶器じみた大きさのものを咥えて一杯一杯になっている内の、微塵の余裕もない場所へにどうやったら同じ質量のものが納まるのか。入ったら奇跡だ。むしろ奇術かもしれない。
 種はあるけど仕掛けはない、と上手いことかけてみるものの、笑う余裕はない。
 色付いた頬を急速に青ざめさせたプーチンのこめかみへ。不意に、唇が触れた。
 左右両方へ落ちた口付けは無言の合図―――了承も承諾もなしの強行に咄嗟に逃げようとしたものの、みっしり挟まれた状態から当然抜けられるはずもなく。

 「気は、失うなよ」
 「しっかり、感じてろ」

 左右の耳挟む声―――同じ顔が一様に浮かべた表情に、シャキリ立った背筋が戦慄した。

 「むっ、むりっ……!!そんなの、ぜったいに、むり、でっ―――」 






























 「っ―――!?!?!?」

 バチンッ。

 バネでもはじけるかのような音持って開いた瞼の向こう、光が突き刺さる。
 白い。真っ白だ―――いや違う。正確には白色一辺なのではなく光の加減でそういう色に見えただけ。次第に復活してきた脳が認識した世界に、プーチンは正しく情報を修正した。

 朝だ。 

 カーテンを透かして入り込んでくる陽光は朝が来た事を告げている。ちゅんちゅんと外で鳴く鳥の囀り。今はおはようございますの時間であり、ベッドに寝転んでいる自分は深い眠りから覚めたのだ。
 バクバクという心音がすっかり耳から遠ざかってから、プーチンはふぅと額の汗を拭った。

 ―――何だか、すごい夢を見た気がする。

 それがどんな内容だったのかよく覚えていないが―――薄っすらと残っている印象は思い出さないほうが良いと言っている気がする―――ともかく、それは夢だった。間違いない。というか、でないとおかしい。
 そっか、夢か―――と、微妙に頬を赤らめながら、あはははと空笑いする。
 何だかちょっと身体が痛いような、あととてもだるいような気がするが、気のせいだ。腰から下の感覚がない気がするのも、きっと気のせい。コサックの踊りすぎに決まっている。

 「気のせい気のせい~」

 まるで言い聞かせるように陽気に歌い、朝ごはんを作るべく身を起こそうとしたプーチンは、

 「―――ほ?」

 しゅるり首に巻きついた何かに引かれ、寝台へとUターンした。
 ぼふり枕へと沈む頭。

 何?一体、何事?

 きょときょとと目を瞬く彼の両脇。唸るような声が、右と左から上がった。

 「……煩い」
 「……大人しく、寝てろ」

 低いトーンの、同じ声域―――掴んだ肩を抱き寄せるよう各々の方へと引き、結局動かなかった身体に仕方ないように擦り寄る。
 クロスする二本の腕の下敷きになりながら、左右側頭部へこつ、とぶつかった赤髪の間でプーチンは動けなくなる。
 急上昇する心拍、血圧。吹き出る冷や汗。


 ―――何、コレ。


 静謐な朝が絶叫によってぶち壊されるまで、あともう数秒。

 



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2010.08.08
二輪差は、諦めました。