捧げ先:『World's End』 月影 眞様


※設定お借りしました!
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正しい休日の過ごし方。

 

 天気も快晴な日曜の昼下がり、大通りは人で溢れ返っている。
 一般的な休日にあたる今日、誰もが楽しい一時を過ごそうと軽やかに石畳踏み鳴らす。
 賑やかさも一際な道の、その丁度ど真ん中―――往来を塞ぐように立つ、二つの影。通行を妨げる迷惑な人物達へ幾つもの目が集まった。

 人波の中へ沈まない細身の長身、そして燃えさかる紅蓮を思わせる真紅の髪。
 鮮やかなその色へ引かれるまま視線で追った先、飛び込んだ顔は曰くあり気な傷跡あるものの、嫉妬も羨望も含めて端正と評すしかない造形をしている。

 ずば抜けたその人の容姿だけでも十分目立つ、が、さらにそれがもう一人。
 正面に向かい合うよう立っている相手の容貌は、衣装と左耳に留めた鋼のピアス以外そっくり先の彼と同じだった。

 まるで、鏡合わせだ―――虚像と実像、どちらが正しくこちらの世界へ存在しているのだろうか。

 冷たさ感じさせる輪郭から長い指、互いを見据える瞳の紅さまで寸分違わないその二人に、自然行きかう足も止まってしまう。

 雑誌の撮影か、何かかな。どこかで小さく囁き交わされる中、二人は厳かに口開く。
 
 「―――靴屋」
 「―――本屋」

 同時に動く口唇。それとは裏腹に合致しない言葉。
 唯一出た差異に両者がくっと柳眉を寄せる―――刻まれた皺の本数すら同じであった二人のうち、今度は片方だけが唸った。

 「……売り切れたらどうする気だ」

 欲するなら一瞬の逡巡もなく掴みとるのが常識。みっともなく怯え石橋叩くなど、愚か者のやることだ。
 言葉少ないながらもはっきり愚者に対する侮蔑示す、そんな突き刺さる相手の眼光を相対する側は一笑に付す。

 「勘で打った博打が毎回都合よく当たるとでも思ってるのか」

 情報を基に論理的な行動展開出来るからこそ、人は霊長類の頂点に立つ。闇雲に突っ走るのは、知能なき動物と変わらない。
 薄い唇に浮かべられたのは、紛れもない嘲笑。皮肉発すれば何万語でも並べられる彼の放った「だからお前は莫迦なんだ」という一言は最もシンプルかつ効果的な嫌味である。
 フン、と付け加えられた鼻鳴らす音に、向けられる視線が鋭さ増す。膨張した怒りの気配と共に固めた拳は、いつ振るわれてもおかしくない。かつて自分の一部であった、正面の顔へと。

 まさに一触即発―――遠巻きに眺めはしても直接関わりたくない、『近寄りがたい』という言葉がぴったりな二人の間から、おずおず声が上がった。

 「あ、あのー……とりあえず、端に寄りませんか……?」

 同じ背丈の二人の間、ちょんまげにした髪型まで隠されて埋まるプーチンは困ったように二つの顔見上げた。
 良識ある彼からすると、現在自分たちの立っている位置はあまり褒められた所でない。行き先の相談ならここではなく、人の邪魔にならない場所でした方が良いのでは、と思うのだ。
 控えめな提案に、しかし両隣の足は根が張ったように動かない。他人の都合など、二人にとってどうでも良い。
 それこそぐるり人垣築いている通行人すべてが路傍の石に見える彼らに、退けるとか譲るとかいう発想は浮かばないのだ。そしてそれは、物理的な面だけでなく精神的な ―――意見に関する面でも、同様。自身から主張折り曲げるなど、あり得ない。
 靴屋に行く予定で出てきたキレネンコと、反対方角の本屋を目指すキルネンコ、偶然にもばったり出くわした双子の兄弟に左右の腕それぞれを掴まれているプーチンは、しかし割れた意見のどちらに賛同すること出来ずに―――あえて言うなら、どちらも正しいことを言っている 気がする―――大変途方に暮れていた。
 折角会ったのだし、仲良くしたらいいのに。嘘偽りない本心漏らすプーチンに、しかしそれが叶う確率は彼のポーカーの勝率よりも低い。
 そもそも二人からしてみれば、向こうが反論口に上らせること自体おかしいのだ。
 誰もあちらの行き先なんぞ聞いていないし、興味もない。シベリアでも火星でも、好きに行けばいい。

 ―――ただし。コイツは、自分が連れて行く。

 コイツは。と力込もった手に、「むほぉっ!」と悲鳴が上がる。が、見上げる瞳が涙目になるとう、どちらもプーチンを放そうとしない。当然だ、掴んでいるものは紛れもなく自分の物なのだから。
 延々平行線辿り続ける遣り取りへ、同じ長さの忍耐が切れるのもまた同じ―――引かないなら、退かせるまで。

 「―――ぁあああ、あのっ!その後は、何屋さんに行くんですか!?」

 瞬時限界まで張り詰めた空気を、プーチンが慌てて割る。街中であろうと通行人を巻き込もうと、この二人は平気で喧嘩を始める。その後に残るのは草も生えない荒野ばかり。
 舗装の剥げた通りで民警と追いかけっこするのは、正しい休日の過ごし方とは言えまい。
 あとぶっちゃけ、掴まれている両腕が痛くてもう無理っぽい。
 自身が五体満足でいるためにも、プーチンは一旦結論保留にして話を進めようとした。―――ら。

 「本屋」
 「靴屋」
 「……ほへ?」

 綺麗に被った、回答。最初と全く変わらない、質問理解していないかのような二人の答えは、だが実際はそうではない。
 本屋と靴屋、主張する声音の低さは同じであったけれど、言葉紡いだ口はそれぞれ最初とは逆―――向き合う反対の口であったからだ。

 つまり、順序入れ替えただけ。一軒目に選ばなかっただけで、相手が行くと言った場所も最終的にはどちらも巡るつもりだったらしい。

 ぽけっと口開けるプーチンとて、あっけにとられもしよう。

 言っていた当人達は最初からその事へ気付いていただろうに、それでも互いを睨む目は益々険帯びる。
 ―――これ以上、無駄な遣り取り続けてもしょうがない。二度に及ぶ話し合いの決裂に、同じ結論下した二人の拳が握られる。

 やはり、世の中何事も腕力で解決するのが一番だ。

 示し合わせたよう構えた腕。最早、誰も止められない―――「なーんだぁ~!」

 すぐ真横で響いた、場違いに晴れやかな声に思わず筋肉がブレーキをかける。
 ゆるり揃って向けられた、キレネンコとキルネンコの二対の赤眼の下、プーチンが「なら、丁度良いですね!」と笑った。
 何が丁度良いのか。訝しげな顔気にすることなく、上機嫌な様子でプーチンは両手を伸ばす。右と左、自分を挟む両側の今まさに殴り合い始めようとした手を臆すことなく掬い―――握った。

 「じゃあ、皆で一緒に行きましょう!」

 声も高らかに提示された、第三の意見。繰り返していた主張を根本から覆すその案に、小さな手にギュッと掴まれた二人の口は揃ってへの字に曲がる。

 「……なんで、」
 「……コイツも?」

 チラリ、横目で相手見る。あっちは置いていきたい、という心情がヒシヒシ伝わる。両者の憮然とした面持ちに、けれどプーチンは「いいじゃないですか~」と一顧だにしない。
 それどころかぐいぐい手を引っ張る彼はすでに出発する気満載である。了解どころか、多数決すら取らない。
 超がつく人の良さに薄れがちではあるが、プーチンも中々我の強い部分がある。頑固、というよりは、思い込み激しく突っ走るタイプなのだが、その押しの強さは我が道を行くことに関して右に出るもののいない兄弟を時に凌ぐ。

 特に、二人の何者にも屈さない、鋼鉄の意志をぐきり曲げる最大要因である瑠璃の瞳―――キラキラ星のように輝く目でもって左右の対称となる顔覗き込んだプーチンは、言った。


 「一人より二人より、三人の方が楽しいですよっ!」


 一体どこからその自信が湧く?と、疑問に思わずにはおれない力強さで、きっぱり、はっきり。根拠も不明確なまま、断言された言葉に。

 「「…………」」

 見合わせた瓜二つの顔が吐き出す息は、やはりぴたりと重なり落ちた。




正しい休日の過ごし方。





 「―――で、どっち先に行きます?」と数歩進んだ後、振り出しへ戻った彼らの行き先が決まるには更にもうしばらく時間がかかる。




 (一人より三人より、二人きりの方が楽しいに決まってる!)
 



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2010.12.20
『World's End』の月影 眞様がリンクの相互文をプレゼントしてくださる、とありがたいお言葉かけて下さったのでこちらからも押し付けさせてもらいました。
……が、酷いですねこのキャラ崩壊。双子が揃ってヘタレてる。せめて書き方かっこよく、とこそっと月影さんのを参考にしたのですが自分には高度すぎて無理でしたorz(というかパクろうとしてすみません・汗)
文もグダグダで到底人様へお礼としてお送りするものではないのですが、月影さん良かったら貰ってやってください。
あ、可燃・不燃・粗大ゴミ全ての日に対応しているのでいつでもポイッと処分してください!(汗)
それでは、今後ともどうぞ宜しくお願いします!