※注意※
・シーズン3終わって、逃亡者と民警が知り合いの仲です。
・赤が少し頭悪いです。
・狙が少し頭悪いです。
・ひねりのない王道ネタです。





うそうそほんと、ほんとうそ。


 はぁ―――と吐き出された息は、早春のうららかな陽光の元でつくには少々重いものだった。
 目の前で首を項垂れさせているプーチンの姿に、ボリスとコプチェフは顔を見合わせた。
 普段の天真爛漫とした明るさがどこかに置いてきてしまったようにない。天辺で括っているちょんまげすら、へにょんと元気なく萎れてしまっているように見える。

 「何いっちょまえに溜息なんかついてんだ、チビ」
 「…………チビじゃないですよぉ」

 軽口に反論する声も、どこか弱い。本格的に覇気のない声に、からかうつもりだったボリスも面食らってしまう。

 なんなんだ、この反応は。

 雨の日も雪の日も、風邪を引いた日ですら元気一杯に笑って踊っている相手がこんなに消沈しているのは初めてで、冗談のようにしか思えない。が、しゃがんで覗き込んだ緑の瞳が 本当に憂いの色を帯びているのを見て、ボリスは本格的に戸惑った。

 「おい、お前どうした?変なもん拾って食ったんじゃねぇだろうな?」

 乱暴な口調で、しかし覗き込む顔に心配そうな表情を浮かべる不器用な民警に、プーチンは慌てて「そんな事してませんって」と首を振った。その取り繕うような苦笑いすら、どこか沈痛で痛々しい。
 見れば簡単に異変に気づくというのに、本人は沈んでいる原因を喋る気はないらしい。
 詰問するのは職業上得意だが、いかにも具合の悪そうなプーチンを締め上げて吐かせても意味がない。仮にそんな事をした日には、今ここに居ない彼の連れにどういう目に合わされるか分かったものではない。 腕に自信はあるが、アレは桁違いだ。殺られる前に逃げろの選択肢をとって、この世で最も信頼の置ける腕利きドライバーの相棒に逃走を任せたとしても果たして逃げ切れるかどうか。
 それにそもそも、弱者を痛めつけるのはボリスの趣味ではない。
 正義の味方を気取るつもりは毛頭ないが、それでも一応治世を守る民警なのだ。善良な一般市民を追い詰めてもしょうがない。
 色々理由を連ねたその根本は、子供好きで実直な性格をしている事に終結するボリスは目の前の相手をどうして良いか分からず、傍らの相方に視線を向ける。
 キツイ性格が現れている目元を、困ったように歪ませて見上げるボリスにコプチェフは肩を竦めた。

 「あーあ。ボリスが苛めるからプーチン元気なくなってるじゃん」
 「誰が苛めただ!今の流れでどうやったらそうなる!」
 「あ、いえ!別にボリスさんがどうって訳じゃなくって……それに、僕元気ですから」

 わたわたと弁解するプーチンに、コプチェフが首を振ってその肩をぽんと叩く。藍色の目に同情を浮かべて彼は目の前の小さな友人を見た。

 「良いんだよ、プーチン。無理せずにボリスを訴えれば。刑務所行きは無理だけど、減給くらいはされるから」
 「コプチェフ、テメェ一回マジで殺して更生させてやろうか……!」
 「ほっ!?ふ、二人とも喧嘩しちゃ駄目ですよー!」

 ジャキッ、と殺気だった目で愛用のドラグノフ狙撃銃を構えるボリスと、その反応を分かっていてからかうコプチェフとの遣り取りに、真面目なプーチンが堪らず叫ぶ。
 実年齢より幼い顔立ちを青くさせて戦慄する相手に「冗談だよ」とひとしきり笑って、コプチェフは改めてプーチンを覗き込んだ。
 深い湖面のような、思慮深い蒼。それに見つめられた瞬間、心の底を見透かされたような気がしてしまい、プーチンは無意識に体を硬直させた。

 「体、大丈夫?」
 「へ?あ、あの……僕は、別に……」
 「無理しなくて良いって言ったろ?甘えても罰は当たらないさ」

 ちょんまげの頭を、コプチェフが子供にするように撫でる。優しい手つきといい人のよさげな笑みといい、好青年として申し分のない所作だ。対象相手が女性であれば さぞかし喜んで受け入れるに違いない。相手を安堵させ、その心を開かせる技法に長けている。
 例外なくその手腕の前で、体の力をほっと抜いていつもの物に近い微笑を浮かべたプーチンに、コプチェフは更に笑みを深めて続けた。

 「君はちっちゃいから、彼の相手はちょっと大変だよねぇ」―――と。

 ちょっと、大変だよね。

 ぽけっと見上げていた真ん丸な緑の瞳が、徐々に見開かれていく。
 正しく言葉の意味を理解したプーチンは、くすくすと笑う相手に思わずぎゃあと叫んだ。
 全て知っている、と言わんばかりの表情の前で、口をパクパクさせる。

 「な、なななっ、なんで、そんな……」
 「分かるのかって?そりゃあ、見れば分かるとしか良いようがないかなぁー」

 よっぽど鈍くない限り、とちらりと含みを持って後ろを見る。さっさと蚊帳の外に出されて所在無く立っている彼の相棒が「何だよ」と睨んだ。
 不機嫌な顔をした相棒へ適当に手を振りながら、顔色を青から赤へ七変化させているプーチンへ、コプチェフがそっと囁く。

 「彼、結構凄いの?」
 「!!!!」


 真っ赤になったプーチンの体が、ぷしゅぅっと空気が抜けるように崩れた。


 「―――お、おいチビ!?」
 「うーん。いっそ惚れ惚れするくらい、分かりやすい反応だよねぇ」
 「ってコラ!コプチェフ、お前何しやがった!?」
 「えー?俺、何もしてないよ?」
 「嘘つけ!苛めてんのはお前のほうじゃねぇか!」

 慌てて脱力する体を支えてやったボリスが、飄々としているコプチェフに咆える。その怒声を涼しい顔で聞き流してしまうコプチェフを、打ち負かせる相手はここには居ないようだった。
 ぐったり、と最初の時よりももっと疲れた感を増しているプーチンを、ニコニコ笑いながら撫でる。その手に益々生気を吸い取られているとはきっと誰も想像するまい。人間、見た目と雰囲気が肝心なのだ。
 赤い顔で呻くプーチンに流石に悪いと思ったのか―――愉しげな表情は変わらないので、正確な意図は判らない―――コプチェフが「良い事を教えてあげる」と耳元へ口を寄せた。
 あれだけからかわれたにも関わらず、人の良いプーチンは律儀にそれを聞く。
 ごにょごにょと吹き込まれた内容を一頻り頭に描いて、感想を当惑にして表情へ出すプーチンに、まるでダメ押しをするようにコプチェフは肩を叩いた。

 「ああみえて意外と真面目そうだし。効くと思うよ」

 一体どこからそんな自信が湧くのか。
 そう疑問に思わせないほど自信たっぷりに笑う相手に、疑う事を知らない目が戸惑いをもって頷いた。










 「ただいまですー……」

 いつもなら元気一杯に開けて子犬のように駆け寄る室内のキレネンコに、こそっと帰宅の挨拶を告げる。
 その普段と違うプーチンの反応にちらりと僅かに視線が寄越されたが、すぐに手元のスニーカーへと戻った。
 一見無関心で冷淡な反応に見えるが、その赤い瞳は一瞬にして戻ってきたプーチンの体に外傷の類がない事と感情を隠さない顔に負の曇りがない事を見抜いている。
 根掘り葉掘り追求はしない。必要以上に踏み込む事は尊厳を崩し、全てを拘束する事は存在を壊す事に他ならない。言葉を尽くすのが不得手な彼だからこそ、言葉では表現できない部分を機敏に察知できる。
 捕らえておきたい、という気持ちがないといえば嘘になるが、最終的に自分の元へ帰ってくるならそれで構わない。純真に輝く緑の瞳が変わらず傍に在り続けるのなら、相手の望む事をさせておけば良い。

 何者にも囚われない、自由で無垢なその魂の在り方に、心を奪われたのだから。

 勿論、結果としてその心身が僅かでも傷つく事があれば、その時は容赦なく制裁を行う。
 相手が誰だろうと、程度がどれほどだろうと、とりあえず生きている事を後悔させるまでには追い詰める。
 今日のプーチンは確かに挙動不審だが、それを追究しなければならない程かとなると微妙なところだった。少なくとも表面上は何かを哀しんでいる様子はない。どちらかというと困惑しているような、何か言い出そうとして その切り口をどうしようか迷っているような、そんなもどかしさが顔には浮かんでいる。
 どうした、と問うてやるのも手段の一つだが、こうした場合は相手の方から切り出すのを待つ方が得策なのを知っている。
 だから気のないふりをして背を向けておく。言いたいことがあるのならいづれ話しかけてくるし、言いたくないなら黙っているだろう。

 まぁ―――最終的にあんまりにも不審な場合は実力行使で聞き出すが。

 そんな聞き方によっては不穏にも取れる事を相手が胸の内で考えているとは露知らず、プーチンは眉を寄せてどうしようかと悩んだ。
 数奇な出会いで馴染みになった民警の二人の元から帰るまで、延々考えていた内容を未だ悩む。

 教えてくれたコプチェフによると、これは一言言うだけで効くらしい。
 しかも下手な演技も言い回しも要らない、むしろ棒読みで告げる方が効果があると言われた。芝居を打つのが苦手なプーチンとしてはありがたい限りなのだが、それで大丈夫なのかと考えると躊躇してしまう。
 何よりすぐにばれてご破算になるとはいえ、大切な彼に嘘をつくというのは非常に考え物だった。
 そう零すと、開き直っているだけだとボリスが後で評した爽やかな笑顔が、有名な諺を謳った。

 「Умная ложь лучше глупой правды.賢い嘘も、時には愚かな真実に勝る。大丈夫、仮に怒られても涙の一つでも見せて謝れば見逃してくれるって」

 後半はすでに失敗した時の対処法のように聞こえたが、それを尋ねる発想など湧かせないほどにその発言は巧みだった。

 大丈夫、心当たりのある相手なら理屈抜きにまず反応しちゃうから。
 大丈夫、嘘なんて呼べない、冗談みたいな他愛もない内容だから。
 大丈夫、皆やってる事だから。多くの人が効果を実感しているから。はじめはお試し感覚でやってみれば良いから。

 滑らかな語り口についふんふんと頷いていた結果、とりあえず帰ったら実践する事と約束まで取り付けてしまった。なんだか詐欺にあったような気分である。治安維持を職に持つ相手がそんな事をするわけはないのだが。
 そして約束をしてしまった以上、ここで反故にすれば今度はコプチェフに嘘をつく事になってしまう。無表情のキレネンコを相手に嘘がばれれば確実に怖い事になるのは分かっているが、対照的な笑みを浮かべる夕闇に染まる間際の紫苑の影が濃さを増すのを想像すると何故か無性に背中が寒かった。

 どうしよう。

 うんうんと唸っているプーチンを最終的に押したのは、あの詐欺的口調で煙に巻かれている最中の一言だった。


 「それにね、結構言った瞬間喜ぶんだよ」
 「喜ぶ、んですか?」
 「そ。だって誰だって嬉しいじゃない、実際にそうだったなら」
 「あぁ。確かにそうですね」

   それが嘘だと分かった瞬間、当然嬉しさも霧散してしまうわけだが。そう余計な真実は告げられなかった事で、プーチンの頭には『キレネンコがちょっと喜ぶ』という図式だけ残った。


 喜んでくれるなら、悪くないかも。
 嘘をつくのではなく、夢を見せるのだとコプチェフは言った。これはもうすでに嘘ではないのだと。
 嘘でないのなら―――構いはしないだろう。

 心一つ決め、プーチンはそっと、スニーカーを磨き続ける赤い後姿へ近寄った。

 「キレネンコさん」

 呼掛けに手が止まることはなく、けれど空気が「何だ」と伝えてくる。振り返らない背は今回は助かった。振り向かれて真っ向から赤い瞳に見られたら、折角決心した嘘―――ではなく、発言がブレてしまう ところだった。
 耳に神経を集めて聞く姿勢を見せてくれているキレネンコに、プーチンはギュッと目を瞑る。舞台の上でもこんなに緊張しないだろうというくらいに心臓が五月蝿く音を立てる中、芝居も演技も抜きで台詞を言った。


 「僕ね、赤ちゃんが、出来たんです……」


 ふるり、と意図せずに弱弱しく震える自己の声。
 それを自分の耳捉えたプーチンは、言い切った途端思った。

 やっぱり、これはないんじゃないだろうか。

 今まで人に騙される事が多かった自分でも、絶対に信じたりしない。これを信じるなら、冬海を覆う流氷が全てなくなってしまうというのを信じる。
 第一これって根本的にありえない話じゃないかと、今更ながらプーチンは気づいた。
 男性の自分にどうやって赤ん坊が出来るのか。過程の要項を行っていないとは言わないが、ありえないでもありえる、なんて言葉は生物の絶対的摂理の前には通用しない。


 騙すつもりが、完璧騙された形になっている。プーチンは、思わず宙を仰いだ。


 嗚呼。絶対に、怒っただろうなぁ……

 誰だってこんな馬鹿にするような事を悩んだ末打ち明けられては怒るだろう。むしろ頭の心配をされかねない。
 すでに怒られる恐怖よりもう駄目だと諦観に遠い目をして明後日を見る緑の目に、しかしいつまで経ってもあの幽鬼のような顔は映らない。
 不審に思って目を前の人物にやると、向けられたままの背はぴくりとも動かない。
 ―――なんだか、死に掛けていた時みたいだ。
 何度か経験した不吉な状態に、プーチンの背が総毛立つ。突いたら、あの時同様倒れて起き上がらないのではないのか―――そんな不安が心臓を射竦めた。
 そんなに静かになるほど、怒ってしまったのか。なら、頭に光の輪っかが浮かぶのは自分だろう。

 彼に怒りを告げられるまでもない。これほどまでにないつまらない嘘をついた自分から、進んで首を差し出そう。
 
 そう、キレネンコの前へと回り込もうとした時、プーチンは気づいた。足元に、スニーカーが転がっている。柄を見れば先程まで彼が磨いていたものだと判別できた。
 落としてしまってうなんて珍しいな、と不思議に思いつつ拾い上げようと伸ばした腕は、靴に触れる前に強く引かれた。

 「う、っわ―――!」

 頭から落ちる、と思った体は、すぐさま硬い物に衝突した。正しくは、硬い物が向こうから衝突してきた。
 ぶつかった衝撃は大したものではない。けれど、上半身に感じるありえない締め付けがプーチンを責めた。
 痛い痛い痛い、というか苦しい。
 文字通り息が出来ないくらい締められて、思わず脇に流れた赤い髪を引いてしまう。
 覆いかぶさった相手はそれに怒りもしなければ、訴えを知って腕の力を解こうともしない。
 ひょっとして新しい圧死の手法なのだろうか、と酸欠になりかけたプーチンの目にお花畑が見えかけてきた。

 「分かった」

 分かった、というなら是非とも締める力を解いて欲しい。酸素を吸わせてもらえれば、いくらでも嘘をついた事を謝罪するから。
 かろうじてまだ聞こえた声にそう乞う前に、少しだけ力が緩まる。が、緩んだのは腰に回った手のほうで、背中上面を締める片腕は緩まりはしない。まるで背中半分から下は腫れ物があるように、上は押し寄せる激情を抑えるように。
 雄叫びでも上げそうな強さを感じさせながら、朦朧としかけた意識に潜り込んだのは冷静な低い声だった。

 「安心しろ」
 「は……?」
 「責任は、取る」
 「…………」

 ぎゅぅっっ、と腹より上のくっついた場所が締まる。
 腹部を潰さなくても大本の酸素が足りなくなったら中にも影響するんですよキレネンコさん、と教えてあげたいが、もう無理だった。

 ―――コプチェフさん、効きすぎた場合はどう対処したら良いんでしょう。

 アフターフォローのアプローチは否定からにするか謝罪からにするか、それとももう本当に叶えるしかないのかプーチンは酸素の足りない白い顔で思った。










 「でねー、まぁ相手も相手だよね。受ける側の気持ち考えろっていうのかな?吃驚したなら良い薬さ」

 くるくると愛車のキーを回しながら爽やかに笑うコプチェフに、ボリスは「お前が受ける側の気持ち考えろとか言えた立場かよ……」と思わず言いたくなったが、ぐっと堪える。言ってしまえば墓穴になりかねなかったからだ。
 なるべくその事を考えないようにしながら、漆黒の目がげんなりとして相棒を見た。

 「相変わらずつまんねぇ知恵だけは働くんだな、お前は」
 「お褒めに預かり光栄だね」

 嫌味に対しても、清々しいほどの笑顔で応じる。この裏を読ませない好青年然した顔に、大抵の女がころっと騙されてしまう。運転の腕前と同じくらい、人を誑かすのに長けているのだこの相方は。
 民警になんぞならずに、結婚詐欺でも働いている方が似合っているのではないだろうか。

 「お前それだけ分かってるって事は、今まで唾つけた誰かに言われたんじゃねぇか?身に覚えがねぇわけねぇもんな」
 「やだなー、俺はそんなヘマしないよ。ちゃーんと確認と準備をしてるから」
 「そうかよ……」

 若干の棘を含んで言った言葉にすら、これだ。
 ボリスは真面目に相手をするのが馬鹿らしくなって脱力した。お誂え向きに巡回の時間だ。周っている間も二人きりで話すことになるのだが、ハンドルを握るとこの人を食った性格も少しは締まる。
 安全運転で発進したラーダ・カスタムの助手席で流れる景色を見ながら、ボリスはふと口を開いた。

 「そういやコプチェフ。この間の医務検診だけどな」
 「ああ、あれね。俺コレステロール値が若干高いとか言われちゃったんだよねー。毎日歩けって言うけど、運転するのが仕事なのにどうしろっていうんだか」
 「人力車でも運転すりゃ良いんじゃねぇのか」

 それだとこうして並んで座れないから嫌だなー、と相手の照れた声を期待して笑ったコプチェフに、返ってきたのは感情の篭らない声だった。

 「俺、ガキが出来てた」

 ガード下の三流役者に匹敵するような、棒読みの台詞。
 言い方が悪いのか運転に集中していたからか、うまく意味を酌めなかったその台詞を理解するよう、コプチェフが繰り返した。

 「へー、ガキが出来てたんだ?……が、」

 ―――キィィィィッ!!!

 と、急ブレーキでタイヤのスリップする音が上がる。がっくんとフロントへ突っ込むように揺れた頭を慌ててボリスが防ぐ隣で、クラクションがパアァァァッ!と盛大に鳴った。
 丁度対向側から来ていた一般車両が驚いたように操縦を狂わせて派手によろけていたが、がばっと身を起こしたコプチェフはそれに見向きもせず助手席側に身を乗り出す。

 「え、ちょ、マジで!?出来た!?本当?俺達の―――」

 先程までの爽やかさはどこへやら、暑苦しいほどに興奮を浮かべる口が、急いた様に開く。
 子供が、か、愛の結晶が、か。一つの疑念もなく続こうとした口に、銃口が押し付けられた。

 「嘘に決まってんだろこのアホ!」
 「いひゃいよ、ぼりふ~……」

 騙していたつもりが、騙された。
 でも大丈夫、このやり方で騙された相手はボリスだけだから―――とコプチェフが告げるには、まだ時間がかかる。

 



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2010.4.1
あんまりにもあんまりな内容なので、エイプリルフール1日限定TOP掲示。
寝起きに「メール見たんだけど」と言ったら効くのと同じ理論。

2010.4.6
サイト再アップ。