※注意※
・基本設定完璧無視。
・(赤)←緑←双子弟前提の双子弟×緑。
・明るさの欠片もないです。
・皆報われてません。

スクロールにて表示です。



































Romanticist Egotist

 
 情事の後のだるい身体を起こす。最高級の寝具達にそのまま埋まっていたい誘惑に駆られるが、戻るまでの時間を考慮すると僅かな休息も取れない。
 床に散らばった服をかき集め、未だ熱が冷め切っていない肌へゆっくり纏っていくプーチンの背に、声がかかった。

 「寝物語の一つもなく出て行くのを、失礼だと思わないのか?」

 憮然とした声音に、ボタンを留める手が止まる。振り返ると、一筋の紫煙が緩く上る向こうで醒めた赤眼とかち合った。
 煙草を挟む手で口元が覆われているが、その目を見れば手の向こうに何時もの酷薄な笑みはない事が容易に分かる。 
 睨むような、機嫌の悪い目にプーチンは困った顔で首を傾げた。

 「……情緒がない、ですか?」
 「Точно.そのとおり分かってるじゃねぇか」
 「すみません……」

 でも、帰らないきゃ―――眉を下げたまま最初の頃から変わらず繰り返される言葉にキルネンコは大きく煙を吐き出す。その息が不愉快だと物語っているのは、どんなに鈍くても解る。
 苛立ちが露な相手へ、しかしプーチンは前言を撤回する様子なく穏やかともいえる微苦笑を浮かべる。それがまた、腹立たしい。
 忌々しげに響いた舌打ちに、服を着終えたプーチンが寄ってくる。微妙に動きが覚束ないのは先の行為の名残があるからか。故意に暴力的に振舞った覚えはなくても、加減せずに 抱いた身体がどこかしらが負担を負っていても仕方がない。

 ―――ならいっそのこと、抱き潰してしまえ。

 何度となくキルネンコの脳裏を過ぎった考えは、結局今夜も実行されなかった。それを行ったところで、別れの挨拶をしようと見下ろす深緑の瞳が映す感情が変わらないのを知っている。
 代わりに、申し訳なさそうに佇む姿をキルネンコは最大限の眼光を持って睨む。情を交わしたばかりの相手でも平気で殺せる彼の、見る者を竦ませる視線を真っ向から受けながらプーチンは小さく頭を下げた。

 「……すみません」
 「思ってもない事を口にするな」
 「そんな事は……」

 ないです、と口にしようとした言葉は、引かれた腕に途切れた。肩の関節が外れそうなほどに乱雑に引っ張られ、つい先程まで居たベッドの上に身体が逆戻りしてしまう。
 ―――煙草の火は、ちゃんと消されているのだろうか。
 生命に関わる危険を尋ねる言葉は、プーチンの頭の中には浮かばない。圧し掛かった相手から受ける、噛み付くような口付けに対応するので精一杯だった。
 潜り込んできた舌を噛んでしまわないよう口を大きく開ける。それでも足りないとばかりに顎を押さえた指が下へ下げるように押した。
 絡めとられ、吸われる舌に無意識に腰が浮く。覆いかぶさった キルネンコの身体へ腰を擦り付けてしまいそうになったプーチンは、慌てて自制をした。
 抱かれたばかりの躯に火が灯るのは、早い。
 身の下で熱を持ちかけている身体を押さえつけながら、口を離したキルネンコは紅い痕も新しい首筋へ、噛み付いた。舌を噛まないように口を開けていたプーチンとは対照的に、喰らう事を目的にして 口を開く。
 頚動脈の上に突き刺さる硬質で鋭い犬歯と柔らかく熱い舌の動きを肌に感じながら、プーチンは相手の肩を押した。
 行為が嫌だ、というわけではない。良いも悪いも、それを決める権利はプーチンには無い。熱と、僅かな痛みを持っている身体は自分の物であっても、そこへ更に熱を加えるか加えないかを決めるのは自身ではない。

 ただ、今夜は―――本当に帰らなければ、遅くなりすぎてしまう。

 礼儀なく寝物語を蹴っても、求めてくれる相手を不快にさせてしまっても。
 このまま受け入れたいと思う自分を、押し殺してでも。


 帰らなければならない―――あの人の、元へ。


 「んっ…や、……待っ、て、くださっ……」

 填めたボタンを取ることなく、服の中へ潜り込んできた手を捕まえる。胸元深く入り込んだその手が容赦なく尖りを抓るのに声を上げそうになりながら、それでも懸命に自分より力強い相手の手首を掴む。
 が―――掴んだはずの手首を押さえつけられたのは、プーチンの方だった。

 「誰が抵抗しろと言った」

 硬い声音に、熱に浮きかけていた頭が冴える。浮かんだ頬の赤みすら急速に色を戻しながら顔を向けたプーチンは、声よりももっと冷たい、鋭く刺さる赤を見た。
 つめた息を、思わず飲む。
 ギリギリと締め付けてくる、手首の痛みすら忘れる。意識を占領する、戦慄と畏怖。向けられる絶対的な支配者の目。逸らすことも許さず、一片の反論も口へと上らせないその眼が、見開いた緑の瞳一杯に映る。
 強張らせ、微かに震えていたプーチンが身体の力を抜いたのは、大分長いこと経ってからだった。
 ぎこちなく弛緩し、自分からシーツへ埋めた手首は押さえる手が退いても持ち上げられない。退いた手が服を捲くし立て、胸元へと再び這わされる。同じように首筋へ顔が埋められ、胸へと動く。
 見えなくなった瞳が、それでも鋭い光を宿したままだということをプーチンは解っていた。
 思惟を挟む事は出来ない、と思った時の事を思い出しながら、弄られる身体が暴れないように耐える。
 長い爪で引っかかれ、摘み取られるように捻られる片方と、歯を立てて噛み潰されているもう一方は、どちらも 等しく与えられる痛みを躯を悦ばせる刺激だと認識してしまっている。熱と痛みとそれを上回る気持ち良さで魘されてしまいそうな頭を降ったプーチンは、それでもシーツを握り込んで自身を押さえつける努力をみせた。
 胸に降りる頭を抱きこんでしまいたいが、そうして良いとは命じられていない。上げろとも殺せとも言われなかった声を小さく漏らしながら、顔を横に向ける。背るようになったプーチンの顔をちらりと赤い瞳が見たが、キルネンコは何も言わずに 口に含んだ物を噛んだ。
 ぷくりと膨らんだものへと前歯を立てる。歯列より奥に来た先端を挟んだまま、舌先が表面を舐め上げた。びくんっと下で跳ね上がった身体を、キルネンコの空いているほうの手は押さえつけない。仮に抵抗らしいものを見せれば、 歯と爪とを立てているものを千切ると―――簡単にやってのけられる惨事を、匂わせる。
 それも知ってか、プーチンの背が大きく反る。シーツを手繰り寄せながら、ともすれば浮きそうになる己の腕を彼は見た。
 指跡がくっきりと、焼きついたように赤く残っている。薄暗い部屋でも何故か認識できるその色に、触れられる胸の、その奥の部分が疼くように反応する。

 これは彼の色だ。鮮やかに燃える―――愛しい愛しい色。
 鋭い眼の持つ、流れる髪の持つ、自分にはない、愛しい―――どちらの、色?

 「……っ、んっ……ふ……っ」

 浮かんだ像二つに、叫んでしまいたい口を手で覆うことも出来ない。上がる声がただの嬌声なのか意味のある名を呼ぶのか解らないまま、ぶれてしまった色を隠すように瞼を強く閉じた―――それなのに。

 「足を開け」

 耳朶を打った声に、思わず瞑ったばかりの瞼を開く。首を戻して見上げた先では、見えないプーチンの頭の中を見透かすように冷えた赤い瞳が向けられている。
 その視線と指示された内容とに動揺を浮かべるプーチンを、相手は赦してくれない。余所事を、息を乱す手を別の手に重ねてしまった事を、赦してくれない。。


 「―――……」

 一つ、息を吸って。
 緩く眼を伏せたプーチンは、擦り合わせていた膝をゆっくりと開いた。
 開け広げになる部位にひやりとした空気を感じ、羞恥を覚える。同じ開かれるなら相手の手で割られる方が何十倍も恥ずかしさは少ない。温度のない瞳の前に、自分から熱を持って反応する下肢を曝け出す 事のなんと難しいことか。
 焦れるくらいの時間をかけながら、関節の限界まで足を広げる。
 たったそれだけの動きで、頭の中が酸欠になりそうなくらいクラクラした。上る血に、見下ろす赤と同じ色が眼の内側に広がる。
 眼をそらしていながらも、降り注ぐ視線がどこに向いているか解る。突き刺さるそれは冷たいのに、身体は真逆に一層熱くなっていく。
 自身のその反応に、見下ろす相手の目が侮蔑か軽蔑を浮かべていても仕方がないとプーチンは諦めた。
 熱っぽい息を吐き出しながら、目を閉じる。
 このまま抱かれるのであれば、キルネンコがさけずむ気持ちをそのままをぶつけて傷つけてくれれば良いと思う。痛みを感じれば、 少しは自分の気持ちを―――彼を疵付ける勝手な利己心を考えずに済む。すでに今夜幾度も受け入れた身体はきっとすぐに痛みを感じなくなるだろうから、それすら打ち消すくらい手荒に抱いてくれれば良い。

 抱かれて、傷つけてもらって、そうして―――


 早く、帰らないと。


 広げた足が痙攣する。膝を閉じることなく晒したままの状態で、けれどどれだけ待っても触れる手は伸びてこない。
 不審に思って目をそっと瞼をあげると。涙と熱で若干ぼやけたプーチンの視界に煙草を引き抜ている手が映った。
 カチッ、とライターを付ける音と共に、部屋へ煙が立ち上る。
 戸惑う視線の先で、プーチンの上から退いたキルネンコは胸深くに吸い込んだ紫煙を吐き出す。そのついでのように、低い声が告げた。

 「……帰れ」

 もういい、と。冷たいままの、興醒めしたような物言いに、プーチンは思わずズキリとした胸を掴む。
 反射的に赤い髪の流れる背へ手を伸ばしかけ―――その手を握ったまま、黙って身を起こした。
 のろのろとした動作で乱れた服を整え、身体を引き摺るようにベッドから降りる。最初帰ろうとした時以上に熱い身体は歩くことすら辛い。
 今何時なのか時計を確かめようとして―――止めた。
 気持ちを切り替えるように吐息をつくと、プーチンはベッドを振り返った。
 見やった先のキルネンコの顔は薄い煙で隔てられていて、表情が見えない。その赤い瞳がどんな感情を映しているのか解らない。

 だから。

 「……おやすみなさい、キルネンコさん」

 寝煙草はダメですよ、と微笑み一つを残して。
 謝罪の言葉も別れの言葉も告げないまま、いつかまた来る部屋を後にした。





 扉の向こうで、気配が遠のく。
 引き摺るような足は、それでも留まる事を知らないように一つの場所へ向かって歩んでゆく。

 「………………」

 締められた扉を見たまま、キルネンコは挟んだ煙草を口から外し―――赤く燃えるそれを握り潰した。
 ジュッ、と音を立てて皮膚の焼ける、嫌な臭いが部屋へ立ち込める。掌を刺す火傷は、けれど仄暗い意識を晴れさせはしない。
 解けかけた髪が顔にかかって鬱陶しい。不快さを増長させるそれを払いのけようと手に掴み―――彼はふと、思った。


 ―――この色が、少しでも異なれば。話は変わっていたのか。

 あの目が求めて止まない、求めているのに振り返らない赤と。同じで、なければ―――


 「……………」

 くっ―――と、喉が嗤った。

 有りえない―――出来もしない、妄想。そんな事を、いつの間に考えるようになったのか。
 浮かんだ戯言を打ち切るようにキルネンコが首を振る。揺れた髪が目にかかったが、それを払いのける気はもう起きなかった。


 帰ると繰り返していたその場所に戻った後、何が起きるのか。

 付けた情痕を見咎められるのか。それとも、興味すら持たれないのか。
 肌に無数に散る赤い痕を全て書換えられて、今度はあちらに足を開けと命じられるのか。


 そうなったとしても、その身は逆らうことなく従うのだろう。
 自分を受け入れた時となんら変わりなく―――似て異なる赤を、受け入れるだけ。

 それを『愛情』とするなら。なんて身勝手で、自己中心的に歪んだ想いなのか。


 『Хороша Маша, да не наша.』 すてきなマーシャ、でも他人



 「なら―――お前が真に求めているのは、誰なんだ?」


 答えは、解りきっているけれど。



いびつに歪んだ『愛』じゃ、誰も救えやしないだろ。




――――――――――
2010.4.27
生まれてきてすみません。
でも愉しかった。(最低)
Хороша Маша, да не наша.(和訳:他の人と勘違いしている。本物ではない)
(実はこそっと反転で下部言い訳)











*言い訳(蛇足)*
赤…緑に興味無し。都合の良い時に抱く。
緑…皆が好き。でも赤が居ないと生きていけない。
弟…緑が好き。だから緑が赤の傍に戻るのを止められない。

ネタ出した時点では、緑が監獄で強姦とかされて房をたらいまわしにされた結果手を出してこない
赤と出会って、また襲われかけたところを煩がった赤に助けられて、それに感動して
振り向かない赤を延々追っているところで弟と会って打ち解けるっていう設定でした。
弟に「俺の物になれ」って言われて緑としては嬉しかったりするけどやっぱり赤が居ないと駄目だから
弟が求めるのには応じるけど赤の元に絶対返らないとって思ってて、弟もそんな緑を引き止められなくて、
皆して歪みまくった愛情持って狂人一歩前ですみたいな。あいたたたー、な話にしようと思ってたんです。
でも流石に、自制を……というか、途中で長くなったから切りに切ったらなくなったというか。(爆)

本当にごめんなさい。