Marble Color …赤×緑 赤、黄色、青、緑、ピンク―――色々な色の粒を筒から出しながら、プーチンは隣のキレネンコに尋ねた。 「どの色が良いですか?」 赤い瞳は多種多様な色に特に吟味する素振りも見せず、とりあえず茶色の粒を摘み上げた。 「色つきの方が、美味しいんですよ?」 意外にも保守的に無難な色を選択をした相手に、プーチンは笑う。 そもそもこの菓子に関しては、色が違ったからといってキャンディのようにフレーバーの差が存在するわけではない。 そう告げると、色に拘る相手は「気分的にそんな気がしませんか?」と首を傾げてきた。 隣の食べる姿に倣って、キレネンコも粒を口へ放る。正しくチョコレート色をしたチョコレートは、口内に含んだ瞬間、やはりチョコレートの味がした。 「あっ!噛んで食べちゃうんですか!?」 普通のチョコレートと異なり、表面が硬い層でコーティングされているこの菓子は普通のチョコレートのように口の中に入れていても溶けてこない。噛んで食べることを前提とした駄菓子なのだ。 「うーん……いえ、すぐに噛んだら勿体無いというか。これ、舐めた後が面白いんですよね」 もごもご、と口の中でずっと粒を舐め転がしていたプーチンが、もういいかとキレネンコに向けて舌を出した。 べ。と出された舌は―――一面、青い。 「ひろ、ふいてぇまひゅ?」 舌を出したまま、首をかしげて尋ねてくる。呂律の回っていない言葉で分かりづらいが、舌の色を問うているらしい。。 「大成功です!このお菓子はこうやって食べないと」 じっと青色の舌を見つめるキレネンコへ、一家言あるようにレクチャーする。どうやら子供の時『食べ物で遊ばないように』と注意を受けて育たなかったらしい。「次、何色食べますか?」とやはり色に拘ったまま筒を振った。 「僕、青色壊さない色探しますね。これ、綺麗だから」 乗せする場合は色の相性を考えなければ、折角綺麗に染まった舌が台無しになってしまう。
舌の上にざらりと感じた感触に、プーチンが目を丸くする。
次は、どの色にしようか?
寒い朝に。 …赤×緑 ―――朝だ。 そう思うのに、体が起きない。いや、むしろ一層深く、温かい場所へ潜り込もうとする。 ……寒いなぁ。 つい昨日、春の薫風を感じたばかりだというのに、何故かベッドの外は冬の寒さだ。 ごそごそ温かい場所で身じろぎしていると、後ろに回った手が背中を引き寄せてくれる。 ……あぁ。温かいなぁ。 綿のはみ出たベッドも薄っぺらい毛布も、寒さを凌ぐには不十分だ。隙間風どころか部屋中冷気が満ちている。
今日は、もう少し寝ても許されるだろうか。
「……キレネンコさん?」 頭にのった掌がぽふぽふと、肯定するように撫でてくれる。
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虹色☆トランキライザー …赤×緑 ―――けほっ。 口から煙を吐いた途端、隣が咳き込んだ。パタパタと手で立ち上る副流煙を払いながら小さな咳を漏らす。 「すみません。ちょっと煙草、苦手で―――」 慣れてないんです、と添えながら、けれどすぐに「でも平気ですから!」と手を振る。 ―――普段馬鹿正直なくせに、こういう時だけはすぐに嘘をつく。 すぐばれる嘘はつまり正直の裏返しなのではないかとも思うが、やはり嘘は嘘だ。気分は良くならない。
その身が付いて来るのも、力と威圧で無理矢理引き寄せているだけなのか。
肺に残った煙を吐き出し、手の物を落とす。火がついたままのそれを靴で―――普段ならそんな事をしないのに躊躇いなくしたという事は多分相当苛立っていたのだろう―――踏み消す。 「良いんですか?」 元よりあっても無くても、構わない物体だ。 「すみません……」 隣の顔が、ますます眉を下げる。 俯きぎみの顔を掬い上げる。こちらを映す濁りの無い大きな目には怯えがなく、それが少しだけ―――安堵する。恐れで従わせているのではないのだと、僅かだけでも自信が持てた。 「あの……?」 謝罪か疑問か。
Lips Slime. …弟×緑 ―――こほっ。 立ち上る紫煙に、隣が咳いた。顔へと流れる副流煙をバタバタと扇ぎながら、小さく咳を繰り返す。 「す、すみません……ちょっと、煙草が駄目で―――」 縁がなかったんで、と付け足しながら、それでも即「大丈夫です!気にしないで下さい」と笑ってみせる。 ―――別に、出来もしない取り繕いをする必要は無いのだが。 右の物を右としか言えない性格をしている相手が左だと言っても、説得力は皆無だ。そしてそれもまた、どうでも良いことだ。
ただそこに存在する意思が、何の外的要因を含んでいるにしろ明確に持たれていれば良い。
胸深くに煙を流し込み、煙草の灰を叩く。そのまま短くなったそれを灰皿へ―――すでに軽く山を築いているそれは別に苛立ちのグラフではなくただの習慣の結果だ―――押し付ける。 「好きなんですか?」 確実に禁断症状が出るだろう品を、無くすわけにはいかない。 「そういうもの、ですか」 脇で分かったような、分からないような声が上がる。 警戒も何もしていなかった顎を掴む。開かれた澄んだ丸い瞳はきょとんと呆けていて、それが若干―――呆れてしまう。もう少し怯えたりしたらどうだ、と些か警告を与えたくなる。
咽ながら顔を青くしている相手に、暫くは嗜好品の充実が図れる。息抜きと気晴らしの新しい一品、ともいえるか。 爽快感と充足感は両者伯仲。 ――――――――――
予定調和と不確定事項。 …(緑)+双子弟 『―――あっ!あの、僕です!聞こえてますか? えっと、大した事じゃないんですけど、ちょっと伝えたくって……あのですね、今日ちょっと変わったものを料理してみたんです。見た目、ちょっといまいちなんですけど、でも!味は良いんですよ!自分でも美味しく出来たと思うので、あのー……色々と忙しいと思うんですけど、もし良かったら、食』
―――本当に、要領が悪い。 意味不明のまま終わった用件へ一頻り笑うと、彼は執務机の席から立った。 「…………お出かけですか、ボス?」 古くから居る側近の一人で、右腕とは呼べないまでも―――彼の右腕になるのは鏡写しの肉親だけであったし、彼もまたその右腕であったから―――そこそこ信を置いている相手へ、肩越しの視線が僅かに飛ぶ。 「今日のスケジュールは、ご存知で?」 問いかけに振り向いた顔は、明らかにこちらの心情を慮る様子ないまま片頬を上げた。 「指示は出してある。それで動けないような連中を置いている覚えはない」 鼻で嗤うように言って退けられ、返す言葉は出ない。額を押さえながら「……はい」と頷いた相手に満足そうに嗤うと、躊躇うことなく足はドアへと進む。 ―――予定にない出来事の方が、面白いだろう?
Lost Jade. …看守→(緑) ―――ここ最近、ついてないことばかりだ。 屑どもの集まる刑務所から出たのゴミ屑を一杯に詰めた袋を肩に担いで、真夏のサンタクロースとなったカンシュコフは舌打ちした。 上司は理屈なく怒って説教ばかりかましてくるし、何時も以上に囚人連中が煩いし、昼食で取ったオクローシカは傷んで治まりかけていた胃痛へブローをかましてくれたし。 弱り目に祟り目どころか魚の目も蛸の目もくっついてるんじゃないのか―――なんて、焼け付く日差しで頭もまともに回転しやしない。畜生。 誰に見せるわけでもなく悪態をつきながら、カンシュコフは煙を上げている焼却炉を開く。 「―――やって、らんねーっ、なっ!くそっ!!!」 掛け声諸共、振り上げた腕から袋を投げ飛ばす。夢も希望も入っていないサンタ袋はあやまたず口を開けた焼却炉に飲まれた。 着っぱなしの制服へ入れっぱなしになっている、髪留め。 自ら取り出したそれを見た瞬間、ブラウンの目が苦く歪んだ。 ―――用意なんて、最初からしなけりゃ良かった。 何日も寝ずに悩んで悩みぬいた末に用意した物も、渡す相手が消えてしまってはどうしようもない。しかも相手は『さよなら』の一言も言わずにどこぞへ行ってしまった―――同時に出て行った赤いモンスターに連れて行かれたのだと推測しているが、渡せないことに変わりはない。 髪留めに埋まった、小さな小さな緑の石と同じ目をした相手は、もういない。 小さいといっても本物の翡翠を使っているそれを買うのに、どれだけ苦労したことか。 ―――消えて、無くなってしまえば。この胸の内だって、少しは違うというのに。 ゆるり、とカンシュコフの腕が上がる。 「…………高かったんだぞ、これ」 そう呟いた自身の言葉が耳に入って、益々凹んでしまう。 重い溜息を吐いて、カンシュコフは握った手をポケットに突っ込む。布地の中の蒸れた温度が手へと絡むのが不快だが引き抜く気は起きない。
戻ってきてくれ―――この手の内へ。 |