捧げ先:月影 眞様・緋柳 涙様

World's End(月影様)
桜魔ヶ時(緋柳様)
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※注意※
・基本設定超無視。
・桃看(キルネンコ×カンシュコフ)です。
・微DV?事後表現有りです。
・ちょ、ムリと思った方はブラウザバックして下さい。

スクロールにて表示です。













































 この関係を説明できる言葉なんて、どこにもない。



 それでも、また―――繰り返す。





 

IMITATION LOVERS

 





 例えば、不当に暴力を振るわれた時。どうするのが妥当か。
 若しくは不法に部屋へ侵入されあまつさえベッドまで乗り上げられた時。どう対処するのが、賢明か。

 答えは実に簡単だ―――突っぱねろ、そして訴えろ。

 力技でも司法でも、なんでも良い。どんなやり方であろうと、先に狼藉を働いたそちらへ非はあると糾弾する権利が被害者側には確固としてあ る。


 ―――……はずなのだが。




 「…………」

 枕へ顔面から突っ伏したカンシュコフは、今夜もまた、そのどれもを実行出来ずにいた。

 相も変わらず重労働の極みを行く囚人の世話でクタクタになった体を引きずり一人暮らしの下宿先へと帰ったのは、日付が変更して大分だった頃。
 すると何故か玄関は全開で、まさかとマジックハンドを構えつつそろ~っと入っていった暗い室内には、一人の人影が。
 物色するほどの物もない閑散とした部屋で、まるで場違いに華やかな―――紅。
 纏う焔の色から顔面の大きな傷跡まで、嫌でも毎日目にしなければならない担当死刑囚とよく似通ったその不法侵入者は精巧に造られた顔へあくどい笑顔を貼り付け一言、告げた。

 「脱げ。」

 「おかえり」でも「お疲れさま」でもない、最低極まりない命令形。カンシュコフが回れ右で背を見せたのは当然の判断といえる。
 ほんの数時間でも眠るために彼は部屋へ戻ったのだ。明日、もとい今日も待っている激務に備え、少しでも自身労わるために。無駄な活動で 消耗するような―――適齢期の男子にとって性行為を無駄と言い切るのもいかがかと思うのだが―――時間も体力も、今はない。
 もうこの際だ、眠りの質は望まない。職場のデスクでも空いた囚人房でも妥協しよう。ともかく、早急にここから離脱するべし。
 本能と直感に従い来た道を駆け出すカンシュコフ、その襟首を掴んであっさり引き止める手、振り向きざまハンドを唸らせるカンシュコフ、鉄棒ご とねじり上げてついでに鳩尾へと入る拳、ぐげっと呻いて蹲るカンシュコフ、背中に乗る靴底、前髪を掴む指。
 薄くぼやけた視界に映る、紅。

 暗転。

 いや、正確に暗転したのはその後からだ―――ただ殴る蹴るよりももっと酷い目に合わされて吐く溜息は、重い。砂を詰めたような、だった体は 正しく砂袋と化した。主に、腰から下が。
 色々な意味でダウンしたカンシュコフの乗るベッドが、ギッと音を立てた。安物のスプリングが軋むのは、重量オーバーだった積載が減ったから。自 分の上から退く温度を、カンシュコフは視線だけで追う。
 脱ぎ散らかした服を纏っていく仕草はやけに緩慢だ。こちらと違い疲れているわけでもなかろうに。第一、スケールが違う。
 カンシュコフが一般なら向こうは化け物だ。腕力も精力も並外れた、継ぎ接ぎだらけのモンスター。人の皮被ったケダモノ。


 そうやって心中罵ってみるものの、実際それら全てが的外れな見解である事を、間近で見るカンシュコフが一番良く理解している。


 半端ない馬鹿力の割にはさほど隆起の激しくない上腕、なだらかに張った肩、一見細くも見える腰周りなど。女性らしさとは異なる、無駄を削ぎ落とした男としての艶―――いちいちどこもが蠱惑的で、官能をそそる。
 最初から消したままの電気に代わってしなやかな肉体を浮かび上がらせるのは月明かりのみ。
 差し込むその蒼白い光よりなお色の白い肌は今シャツに覆われつつあるが、ボタンを留める指が逆の動きをしたらどうなるか。意図的に、嫣然 と。口元に弧を描いたまま肌蹴ていく様を目の当たりにしたら。
 確実に、何人か死ぬ。
 おまけに座すのはロシアン・マフィアの頂点ときた。人心惑わすには、十分すぎる要素だ。


 金にも、人にも困らない。その気になれば視線ひとつで対象を骨抜きに出来る。

 気まぐれにしろ、こんなところへ足を運ぶのは逆に酔狂と言えよう。


 乱れた髪を梳き、クロスのチョーカーを正す。最後にカンシュコフの給料を何十ヶ月分出しても手の届かない高価なコートをバサリ羽織り、完了。
 あとは来た時同様、挨拶もせず立ち去るだけ。定例化したいつものパターンだ。
 本当、何のために来ているのやら。カンシュコフに見送りをする義理もなく、惰性でなんとなく眺める。
 ―――と。不意に、柔らかな毛革へ埋まる首が振り返った。

 「なんだ、足りなかったのか?」
 「なっ……!?」

 からかうような声音。予想もしなかった揶揄に、思わず詰まる。
 全身の血という血の温度を急上昇させるカンシュコフに対し、わざとらしい仕草で向こうが肩をすくめる。

 「まったく、『仕事に行かなきゃいけない』って泣いて頼むから加減してやったのに。面倒なヤツだな」
 「うるせぇ誰が面倒だ!テメェの方がよっぽどだろつーか泣いてねぇしっ!」
 「最初から素直に言ってれば考えなくもなかったんだが―――ああ、そういう誘い方だったのか」
 「違うっ!断じて、違うっ!!」
 「ま、今日はもう服も着たし手遅れだ。諦めろ」
 「だああああっ!人の話を聞けぇーーーっ!!!」

 枕をバンバン叩いて猛抗議するが、なんのその。鉄板級に厚いあちらの面の皮には凪ぐそよ風にもならない。そして達者な口からは数倍の烈風 となって返ってくる。
 監獄に居る双子の片割れと唯一異なる性質は、やはり厄介な事に変わりはない。
 クスクス笑う声が近づく。元が手狭な部屋だ、距離を詰められるのはあっという間のこと。枕元から見下ろす紅い双眸が、薄暗い中でもはっきり 認識出来た。
 さっさと帰ればいいのに。相手を寛容するわけではないが、用もなく留まられるのも迷惑である。ぶっちゃけ、落ち着かない。
 我知らず視線から逃げるよう、上掛けを引き上げる。ゴソゴソ奥へ潜り、それでも脇でやたら存在感放つ気配を完全無視することも決め込めら れず、こそり様子を伺う―――その目元を、指先が掠めた。
 反射的に身を硬くしたカンシュコフへ構わず、金髪を払い退けた指は瞼の少し下、頬骨に沿ってなそる。
 ピリッとした痛みが走るのは、最初抵抗示した際に殴られたせいだ。きっと赤く腫れているのだろう。
 伸びる手を叩き落とすことは、無論、可能だった。邪魔だとぴしゃり言って心底嫌悪の表情を向ける、完敗喫していてもその程度の意地はまだ ある。



 けれど―――自らつけた傷に触れながら、どこか、満足そうな顔をする相手に。

 人を小馬鹿にした、冷め切って光を宿さない普段の眼差しとは異なる、紅に。



 見上げたカンシュコフは、何も出来なくなってしまう。


 何故、と聞かれれば、答えには窮すのだけれど。



 「……触んなよ」

 唇を尖らせ、睨む。複雑な胸中ではこれが精一杯。
 ほとんどふてくされているのと変わらない悪態に、高い位置にある口端がひっそり、角度を増した。

 「また来てやる」
 「何で上から目線なんだ……」

 果てしなく尊大な物言いに怒りを通り越して脱力する。本当はその後、「むしろ来なくて良い」と続けたかったのだが、口の中だけに留めておく。 無駄な生傷は少ないほうが良いに決まっている。
 二三度傷口を往復してから気が済んだのか、指が離れた。
 今度こそ本当に帰ってくれるらしい。一瞬反応を探して泳いだカンシュコフの目の前、クルリ反転した相手の背中はスタスタ玄関まで進み、その ままバタンッ。と。あっさり、出て行った。
 当然というか、再び扉が動く気配はない。潮が引くように訪れた、静寂。切望してやまなかった一人きりの空間に、吐き出した息が大きく反響し た。
 浮かしかけた肩をベッドへ戻す。ゴロリ寝返り打つ、途端全身へ広がる嫌な鈍痛に倦怠感。
 一体これのどこが加減されたのか。結局一睡も出来なかったし、確実に支障が出るであろう今日の業務を思うと溜息を吐く他ない。

 いい加減、本気で訴え起こすべきなのだ。住居不法侵入に暴行傷害猥褻―――それ以前に、そもそもがブラックリストに載る犯罪者――― 罪状は幾らでもある。
 この顔が何よりの証拠だ、よく見てくれと、然るべき所へ駆け込めば余裕で勝てる。

 仕事で手落ちを起こして首をくくるのが先か純粋に体力が尽きるのが先か、それとも相手の手で殴り殺される日が早いか。
 顔の殴打痕を、そっと押さえる。
 触られたせいで余計ズキズキ疼くその傷が、いつか、消えないものとなるかもしれない。


 ―――それでも、




 「…………」








 この関係を説明できる言葉なんて、どこにもない。



 それでも、また―――繰り返す。





 今日も、明日も。





 開いた扉の向こう、浮かぶ紅を願って。




IMITATION LOVERS




 (まるで所有印みたいだなんて―――馬鹿だろ、俺)


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2012.03.07
『World's End』の月影 眞様と『桜魔ヶ時』の緋柳 涙様が、以前拙宅1周年にと桃看で祝って下さった折…実は、コソッと返礼に書いていたブツです。
それを丸1年経ってから押し付けるという、この迷惑さ!あと本当はそれぞれのお方のキャラとか作風とか模倣しようとしたけど、頓挫致しました!すみません!!
相も変わらず半端でKYな管理人ですが、お二人ともこれからもどうぞ宜しくお願い致します。そのうちまた桃看書くかもしれません。