作者様:『World's End』 月影 眞様 ―――――――――― 「え、出掛けるんですか?」 朝から片割れと外出することを告げると、彼は驚きと共に不安げにこちらを見上げる。揺れる瑠璃色の瞳を安心させるために、そっと頭を撫でてやれば、それは花のようにふわりと優しく微笑んだ。 「わかりました。気をつけて行ってきて下さいね。あ、でも夕食までには帰ってきてくださいね。約束ですよ?」 笑って、待ってて どうしてこうなった… 振り上げられた拳を軽く往なし、その腹に蹴りを喰らわせながらキレネンコ深い溜め息をついた。 視線の向こうには物騒なモノを手にした黒服の男達。向けられた銃口はこちら側。 もう一度言おう、どうしてこうなった? 思い起こせば、それもこれも全ては片割れである愚弟のせいだ。キレネンコは涼しい顔で片側に控える自分と同じ顔を睨み付けた。 「おい、アレはなんだ…」 赤い冷めた眼が傍らに立つ片割れを射抜く。が、睨まれた彼はそれをまるで気にすることなく、逆に"こんなことも判らないのか?"と小馬鹿にしたようにフンと鼻を鳴らした。 「見てわからんか?アレはどう見積もっても、どこぞのファミリーの下っ端共だろうが」 抑揚のない声がそう吐き捨てるとキレネンコは睨み付ける眼に更に力を込めた。 「そんなことはわかっている。俺が言いたいのは、そのどこぞのファミリーの下っ端が"何故ここにいるのか"だ」 ここは郊外から少し離れたとある森の中。斜陽な造りの洋館が聳え立つここは彼らの所有地。 二人は古くからこの洋館の管理をする人物に半年程前から、あることを頼んでいた。今日は、そのあるものを引き取りにきたのだ。 しかし、彼の地に到着した二人を待ち構えていたのは、見知った人物ではなく黒服に身を包んだ見知らぬ男達。 出会い頭に何やら喚き散らすと男達は有無を言わさず襲いかかってきたのだ。恐らく、以前この愚弟に取引を邪魔されたことを根に持つ輩の強行だろう。とどのつまり仕返しをしにきたということ。 「さぁな、どこからか情報が漏れたか?」 「それは、お前の犬の躾が悪いからだ」 「生憎、俺は飼い主になった覚えはないんだかな」 飄々と言い放つ片割れに呆れを通り越してキレネンコは溜め息を漏らした。 「お前、よくそれでやってられるな」 「フン、俺だってこんな役は願い下げだ。まぁ、誰かがその権利を放棄したせいなんだかな?」 「何をごちゃごちゃ言ってやがる!そっちがこないのなら、こちらからいくぞ!!」 二人のやり取りにイラつく黒服の男が大声を上げると、ゆっくりとキルネンコが振り返った。 「ぎゃんぎゃんと煩い奴だな。少し黙っていろ!」 そう言うや否やジャケットの裏側に手を伸ばす。 「ぎゃぁっ!」 耳に届いた銃声は一発。にも関わらずその場にいた三人の男が同時に身をそり返す。そして、次の瞬間にはその全員が地面に身体を投げ出し、痛みに呻きのたうち回っていた。 「ゲット・オフ・スリーショットだと!?」 ゲット・オフ・スリーショット。 両手でハンマーを支え扱うことで同時に数発の弾を異なる方向に放つ高等技。それを難なくやってのけたキルネンコは、素早く身を翻し一番近くにいた男を銃で殴りつけた。ゴッと骨を砕くような鈍い音が場に響く。容赦なく振り下ろされる腕は既に次のターゲットに向けられている。 「そんなに遊んで欲しいのなら、相手をしてやるよ」 ニヤリ、笑みを浮かべた口元が言葉を発したと同時に放たれた銃弾は、迷うことなく相手の急所を貫く。飛び散る血飛沫に相手が怯むと、その隙を狙ってキレネンコが地を蹴った。 あっという間に相手との間合いを詰めると、その手に握られたナイフを蹴り上げる。カラカラと転がるナイフ。キレネンコの拳が男の鳩尾を直撃すると、男はそのままずるずると崩れ落ちた。 そしてそのまま止まることなく、姿勢を低くし隣にいる男の足を凪ぎ払う。体勢を崩した男は仲間達を道連れにその場に倒れこんだ。 しかし多勢に無勢。どこから湧いてくるのかと思う程の人数が二人を取り囲む。このままだと、少々こちらの歩が悪いだろう。 見遣ったた時計の針は、彼との約束の時間を既に10分ほど過ぎている。 「チッ、きりがねぇ。おい、アレ寄越せ」 キレネンコは舌打ちを打つと、キルネンコに何かを取り出すように手を差し出した。 しかし、キルネンコは顔をしかめバッサリそれを拒否する。 「生憎お前に貸せるようなものは持ち合わせていない」 「ふざけんじゃねぇ!さっさと終わらせて行くぞ。なんならお前一人でここで、コイツらの相手をするか?」 「冗談じゃない。仕方ねぇ、たしかにこれ以上は時間の無駄だ」 そう言うとキルネンコはジャケットの袖口を一振りする。中から現れたのは掌に収まるサイズの小型銃。デリンジャーとワルサーPPKだ。 「「5分だ」」 キルネンコが取り出したそれを宙にほうり投げると、二人は身を翻し互いの立ち位置を変え走り出した。 ダンッと、助走をつけ飛び上がったキレネンコは投げ出された銃を手にし即座に発砲する。 同じくキルネンコも愛銃のリボルバーを片手に相手を迎え撃つ。 鳴り響く発砲音。辺りを包み込む砂塵と鉄錆の様な血の匂い。 煙りの中、先に動いたのは――― 笑って、待ってて テーブルいっぱいに並べられた料理はすっかり冷め、彼らの帰りを待つプーチンは独りソファーに膝を抱え座り込んでいた。 見上げた備え付つけの時計の針はもうすぐ日付を変える時刻。 彼らと約束した時間はとうに過ぎていた。 じわり、視界が滲む。 「早く、早く、帰ってきて」 涙を堪えるためギュッと手を握りしめたその瞬間、ガタガタと大きな音をたて扉が開いた。 顔を上げた先。 そこには、待ち受けていた双人が息を切らし立つ姿。そして、何故かこの時期に見ることの叶わない向日葵の花。 向日葵は雪が降りしきるこの国の国花。花言葉は光輝。 それはまるで――――― 「キレネンコさん、キルネンコさん、お帰りなさい!」 ほら、まるで君のような花 その向日葵のような笑顔が見たいから、君は笑って待っていて。 「「ただいま」」 ―――――――――― 2012.01.01 『World's End』の月影 眞様のサイト1周年記念にフリー配布されていました! やべぇ双子かっこ良すぎ…!洋画の一流アクションの一コマさながらの動き…悪態つき合ってるのにバッチリ息ピッタリとか、流石ボス達ですね!そしてぷちさんど万歳! バトル頑張った二人には迎えてくれるプーチンの花のような笑顔は何よりの癒しでしょうね… 月影さん、素敵な小説ありがとうございました!そして1周年おめでとうございます!!これからも素敵なお話を書いて下さいね~。 ↓素敵な月影さん宅はこちらから! 戻 |