作者様: 緋柳 涙様:桜魔ヶ時 ――――――――――
Комедиант 愚弟の鑑。 よく弟はそう言われていた。 弟は小さい頃から泣き虫で、俺の後をずっとついて来て、1人にされると何も出来なかったからだ。 それでも俺からすれば庇護すべき可愛い奴だった。 つい、3分前までは。 「キレ?早く手洗っちまえよ。血だらけだろ?」 今眼前で返り血を拭うコイツは前述した弟。 周りには屍が累々。 「…いつ…」 俺はコイツの育て方を間違えたのだろう。 裏の世界に居れば自ずと肉体的にも精神的にも逞しくなるものだ。だがそれには相応の時間を要する。少なくとも俺が腹を括ったのはコイツがまだ鼻水垂らして泣いてた頃。 「銃が恐い」「血が恐い」と言っては泣くコイツを出来るだけ裏社会に触れさせないため。 それでも罪悪感を捨て去る事が出来たのはまだ記憶に新しい。 そんな俺の努力をコイツ――キルネンコはあっさり台無しにしてくれた。 突然弱小マフィア潰しを手伝うと言って付いて来たかと思えば恐れていた筈の銃を使いこなし、見れば動きを止めてしまっていた血を大量に浴び笑う。 何がどうなればこうなるんだ。 「キレ?」 再び呼び、覗き込んでくる酷似の顔には盛大に疑問符が浮かんでいた。 聞きたいのはこっちだ。 「…いつ」 先程も呟いた言葉。大概これでキルネンコは理解出来る。 案の定二、三度瞬きをしてから笑った。 「いつから、こうなったって?」 「………」 無言で促す。 笑みを深めた半身は言った。 「ずっとだ。キレが思う程俺は綺麗じゃなかったよ」 「………」 俺の右手を持ち上げるキルネンコ。いつの間にか濡らしたタオルも用意していた。 「クク…俺のイメージってさ…泣き虫で1人じゃ何も出来ない駄目な奴、だったろ?」 濡れタオルで俺の手を拭きながら語る。 「1つのファミリーにボスは1人。暗黙の了解だ、ガキでも分かる」 だが俺らの親父は違った。 2つのファミリーのボスとしてそれぞれ名を変え君臨していたのだ。 「となると後継ぎは必然的に俺とキレが1つずつ担当する事になる。 俺はそれが嫌だった」 だから何もできない奴を演じた、そう言うのか。 「…悪かった、キレ。そう怒るな」 「………」 「キレの想いは嬉しかった。俺を守るため、本当は優しいのに冷酷になってくれたんだよな」 そこまで分かっていて何故俺には何も打ち明けなかった。 いや、ひねくれ者なコイツの事だ。目的を達成する前にそれを他人に言うなんて天地がひっくり返っても有り得ないか。 溜め息を吐いて空いている手でキルネンコを殴る。 「ッて………!」 「くだらねぇ」 「あ?」 「まどろっこしいんだよ」 任されるのが嫌ならどちらかを潰せば良かったのだ。 俺らの力があれば簡単にできる事だ。 殴られた箇所を撫でながらキルネンコが再び笑った。 「分かってねぇなあ………ちゃんと他にも目的があったよ」 「………んだと…?」 だいぶ綺麗になった俺の手を持ち上げ、手の平に口付けを落とすキルネンコ。 冷たい唇の感触が熱い手には心地良い。 だがコイツが隠し続けた目的は読み取れなかった。 見上げてきた紅蓮の瞳に浮かぶ 「…キレに、甘えていたかったんだよ…」 情欲の色を見るまでは。 「だから、さ」 甘い声で囁き手を解放したキルネンコがかつて泣きついてきた時のように首に腕を回してくる。当時と違うのは、そのまま押し倒されているという点か。 初めて見る雄の笑顔は、不思議とコイツに似合っていた。 「…抱かせてよ…お兄ちゃん」 コイツが愚弟?とんでもない コイツは賢くて、狡くて 兄でさえ騙せる 「…Комедиант(道化師だ)」 ―――――――――― 2012.03.07 『桜魔ヶ時』の緋柳 涙様がひなまつりフリーとして配布していたssの桃赤! キル様ちっちゃな頃からなんて演技派な…可愛い弟だと思ってたお兄ちゃんもビックリですね。 ブラコン桃赤、ご馳走様です! ↓素敵な緋柳さん宅はこちらから! 桜魔ヶ時 戻 |