作者様:
緋柳 涙様:桜魔ヶ時

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監獄の生活はただ過ぎる。

淡々と

短々と

幾度となく行われる処刑だって死なない俺には無意味で、ただの過ぎ行く日々の一過程でしかない。

「………足りねぇ」

刺激が

色が


―――アイツが




 

устный зависимости~君依存症~

 



綺麗な満月が無機質な監獄の独房を青く照らす。
鉄格子越しにそれを眺めながらキレネンコは繋ぎ合わされた弟の桃色の髪を弄っていた。

己に繋がれた部分のみ残して死んだと思っていた双子の弟がまだ生きていたと知ったのが2日前。

マフィアを再興して元気にしているとも分かり安心したのが1日前。

逢いたくてたまらなくなったのが今日の晩。

それでも行動に移さないのは、単純に動けないから。
自分が爆破され負った傷は予想以上に深かったらしく、まだ足の動きが思わしくないのだ。
動けるものなら今すぐにでも飛び出して逢いに行きたい。

「キルネンコ…」

そんな想いを乗せて吐き出した名は独房で虚しく霧散した。

「………」

もう眠ってしまおう。
そう思い横になった時だった。


 カツ‥コツ‥‥


小さく響く革靴の音。とっくに巡視の時間は終わっている。

気配からして此方に向かっているその人物。考えられるのは2人。

1人はショケイスキー。偶に眠っていれば殺せるかもと来る事がある。

1人はカンシュコフ。常日頃の恨みと称して寝込みを襲撃される。此方は週2、3回程の頻度だ。

どちらも返り討ちに出来る自信があるので、気にする事なく壁側を向いて目を閉じる。


 カツ‥‥カチャカチャ

 キィ‥‥‥


案の定キレネンコの独房前で足音は止まり、侵入してきた。

静かに、ゆっくりと。

気配が真後ろに来た瞬間、キレネンコは勢いよく起き上がり侵入者の首を掴む。

「ッ?!」

眠っていると思い込んでいたのだろう侵入者をベッドに引き倒した。
足の動きが鈍い今、投げ飛ばしても追撃出来る自信がなかったからだ。
首を掴んだまま侵入者の腹に跨り、両膝で動けないよう二の腕をベッドに縫い付ける。

この間、一秒あっただろうか。あっという間に上下が入れ替わった。

「こりねぇな」

ポツリ呟いて侵入者を見下ろす。

だが月明かりに照らされた侵入者は―――自分。

否、全く同じ造りの顔を持つ男性。

「…ッ容赦、ねぇ…」

看守の制服に身を包んだ半身、キルネンコその人だった。

「な………ッ!」

何故、此処に。何故、そんな格好で。

一瞬疑問が頭を巡ったが、すぐ払拭される。
逢いたくて焦がれた人物が目の前にいるのだ、そんな疑問は瑣末な事。
首を解放し、確かめるように頬を撫でた。

「キルネンコ…」

「…元気そうじゃん、キレ」

ふわりと向けられたよく見慣れた、だがずっと見れなかった弟の嬉しそうな笑顔。

間違いない、夢でもない。眼前には愛しい弟がいる。

たまらず抱き締める。相変わらず低い体温が心地良かった。

「キル…キルネンコ…!」

「ッ…ん………」

ゆるりと抱き締め返してくる腕は微かに震えている。
腕だけではない。耳元で言葉を紡ごうと吐き出す息も震えていた。

「逢いたかった…キレ…目が覚めてから、ずっと…ずっと…!」

顔を上げると、ボロボロと大粒の涙を零すキルネンコ。
背に回された手が服を強く掴む。「傍にいて…抱き締めて………ッなぁ、兄貴…!」

「…ああ」

思い切り抱き締め、頬を流れる涙を舌で舐めとった。



「嫌だと言っても、離してやらねぇ」



望んでいたのは 俺も一緒だ




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2012.03.07
『桜魔ヶ時』の緋柳 涙様がひなまつりフリーとして配布していたssの赤桃!
桃赤の時とは雰囲気もリバーシブルに、お互いに依存しあってるのが双子らしくて良い…!
共同体赤桃、ご馳走様です!


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桜魔ヶ時