作者様:
緋柳 涙様:桜魔ヶ時

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僕の恋人は忙しい人です

僕をお屋敷に置いたまま出張していく事も多々あります

だけどワガママなんて言っちゃいけない

彼が走り回っているのは脱獄してお屋敷に匿ってもらっている僕等が自由に外で歩けるようにするためだから





…でも、ちょっと位はいいよね…?




 

please,kiss me!!





深夜。彼が1ヶ月ぶりに帰ってきた。
重い足取りから、相当疲れているのが窺える。
それでも開いた扉は書斎の重い扉。音で分かった。

また、朝までそこに籠もって空が白む頃には出て行ってしまうんだ。

「キルネンコさん…」

あてがわれた大きな部屋で1人、誰にともなく呟きベッドから起き上がる。
次お屋敷に帰ってきたらやると決めていた決意を胸に、同室で眠るレニングラードとコマネチを起こさないよう部屋から出た。


いつもならそんなに気にならないサンダルの音が長いお屋敷の廊下にペタペタとよく通る。
気配や音に敏感な彼の事だ、とっくに気付いているかもしれない。それでも彼が書斎に鍵をかけてしまう事はないと断言できる。
そんな彼の優しさにつけ込むような真似をするのだから、自分は相当ずるい。

彼の書斎前。足を止めるとペンが忙しなく動く音が聞こえた。

「………」

やっぱりやめておこうかな。

お人好しと言われ続けてきた自分に人の邪魔をするなど到底出来そうになかった。
1ヶ月も前にした決意はどこへやら、ノックしようと上げた手を下ろし、踵を返す。

背後が、明るくなった。



「―――可愛い夜這いかと期待したんだがなぁ…プー」



「?!」

聞き慣れた声に慌てて振り返ると、扉に手を掛けたまま笑うキルネンコがいた。
腕を掴まれ、書斎に強引に連れ込まれる。

「ほあぁ!」

「…色気のない悲鳴だな」

「あうぅ…」

扉の鍵がかかる音。

「さて、何か用があったんじゃないのか?」

完全に捕まった。きっと正直に言うまで出してはくれないだろう。
それでも彼の顔に浮かぶ疲れを見ると気が引けた。

首を横に振る。

「い、いいです!キルネンコさん疲れてるみたいだし、その、大した事じゃないし…」

「大した事じゃないなら遠慮するな。俺じゃなきゃ出来ないんだろう…?」

癖のある髪を優しく梳いて、次いで顔のラインをなぞるように撫でられる。
もしや彼は分かってて言っているのではないだろうか。

「どうした?言ってみろ、幾らでも叶えてやる」

「………キルネンコさん、分かってますよね…?」

軽く睨むと、悪戯っぽく笑った。

「…さぁ?どうだろうな」

この人は分かっている。確実に遊ばれている。

つまり、自分の口から言わせたいだけなのだ。
確かに最初は言うつもりだったが、こうされると意地になってしまうもので。

「イジワルです…」

むくれて言ってみても、彼は笑みを深めるだけ。

「今更だろ」

「むぅ~~~…」

分かっているなら言わずとも。
目で訴えると、笑みが変わった。

「我が儘言いたいのが、自分だけだと思うなよ?」

眉尻を少し下げた、強請るような笑顔。

「~~~ッ!」

ゆっくり手を掬い上げられ、目の前で手の甲に口付けを落とされると顔が一気に熱を持つ。

彼は騙すのが得意だ。それは彼の女性遍歴を見れば分かる。
この笑顔も口付けも自分に言わせる為の演技だろう。

それでも。



「そこじゃなくて…口に、して欲しいです」



それでも絆されてしまう程に、彼が好き。




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2012.03.07
『桜魔ヶ時』の緋柳 涙様がひなまつりフリーとして配布していたssの桃緑!
無駄にイケメン略してムダメンなキル様大登場!!絆されるプーチンもめちゃくちゃ可愛い!!!
正当カップル桃緑、ご馳走様でした!


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桜魔ヶ時