作者様:
緋柳 涙様:桜魔ヶ時

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「邪魔するぞ」

ノックもなしに入ってきたのはキレネンコの双子の弟キルネンコ。
プーチンはメカネンコのメンテナンスを放り出し駆け寄った。

「キルネンコさん、いらっしゃい!」

「久しぶりだな………?キレは?」

挨拶もそこそこに辺りを見回すキルネンコに胸が痛む。

彼が半身であるキレネンコを慕っているのは至極当然。だが少しは自分に興味を示して欲しいとプーチンは思っていた。
想いも告げていない身勝手な片想いだ。自覚はある。
だがここまであからさまに興味を示して貰えないと例え告げても簡単にあしらわれそうで恐くて告白できないでいた。

「今日新しい靴の雑誌の発売日だって、今朝早くから出掛けて行きましたよ」

だから、今は言葉を交わせるだけで満足しなければ。そう言い聞かせる。

「そうか………待たせてもらうぞ」

そう言って返事も聞かずにソファーに座り、置いてあった雑誌を広げた。

「いいなぁ…」

彼の視線を、興味を向けてもらえる雑誌が。
呟いてから無機物にさえ嫉妬する自分が情けなくて苦笑する。

「………」

キルネンコの方を窺うと、聞こえていなかったのか此方を顧みる事なく雑誌を捲っていた。

安堵と、落胆。

少し、聞こえていたならと思う。そうすれば僅かでも興味を持ってもらえたかもしれない。

(本当に、かっこ悪いなぁ僕…)

パン、と両頬を張ってネガティブな思考を振り払った。

「キルネンコさん、紅茶とコーヒーどっちがいいですか~?」

「…紅茶」

「は~いっ」










「キレネンコさん遅いなぁ~…」

もう昼だというのに、キレネンコは帰って来ない。
きっと買った雑誌をどこかで読みふけっているのだろう。
昼食の準備をしながらプーチンは溜め息を吐いた。

「困ったなぁ…キレネンコさんてば…キルネンコさん、ご飯食べて行きませんか~?」

「………」

「あれ?キルネンコさ~ん」

食べる事に関して無視するなどこの双子は有り得ない。
キルネンコの座るソファーを見る。
雑誌を膝に乗せたまま俯く彼。

「…スー………」

そして、小さな寝息。

「?寝てる?」

他人の前で隙を見せない彼にしては珍しい。というか有り得ない。
恐る恐る近付いた。

「…キルネンコさーん…」

「………スー…」

完全に熟睡している。

「疲れてるのかなぁ?」

試しに隣に座った。
キシ、とソファーが2人分の体重に軋む。

「…ん…」

それでも身じろぐだけで起きる気配を見せないキルネンコ。
これ幸いと普段こんなに近くで見る事の出来ない顔を観察する。

(…綺麗だなぁ…)

女性の様に長い睫毛、滑らかな肌。痛々しい繋ぎ目さえも魅力的だと思うのは惚れた贔屓目だろうか。
優しく頬を撫でた。
すると睫毛が震え、ルビー色の虚ろな瞳と目が合う。

ドキリと胸が高鳴った。

小さく唇が動き―――



「………飯か…?」



さっきより、落胆の度合いが大きいのは何故だろう。涙も浮かんできた。

「はい…キレネンコさん、まだ来ないみたいですから食べていきません?」

「ん…」

頬に触れた事は全く気にせず立ち上がるキルネンコ。

そこまで意識されていないのかと思うと溜め息が出る。

「あぁ…そうだ」

「ほ?」

不意にキルネンコが振り返った。

妖艶に、挑発的に笑う。

「俺を落としたいなら、寝込みを襲う位してみせな



―――俺が好きなんだろう?」



気付かれていた

一体、いつから?

拒絶しないのは何故?

言いたい事は山のようにあれど、どれも言葉として昇華されない。

その分、想いを目一杯に乗せて彼を抱き締めた。





 

please,look me!!






(なんて、臆病な恋)




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2012.03.07
『桜魔ヶ時』の緋柳 涙様がひなまつりフリーとして配布していたssの緑桃!
まさか緑攻め美味しいと言う日が来るとは思いませんでした…女王様キル様万歳。
男の子プーを応援したい緑桃、ご馳走様でした!


↓素敵な緋柳さん宅はこちらから!
桜魔ヶ時