作者様:
緋柳 涙様:桜魔ヶ時

――――――――――



 

神の陥落は始まった




監獄始まって以来の脱獄事件から3日。
大穴を開けられた監房に、髑髏の仮面の男性がいた。

月明かりに青く照らされる其処にしゃがみこんで瓦礫を積み上げる彼の姿は、さながら三途の川原で罪を償う幼子。
唯一違うのは、彼が唄う声が愉しげだという点か。

「ひとぉつ積むのは君のためー、ふたぁつ積むのも君のためー、みっつ積むのはボクのためー

…フフ、フフフフ…あぁ…いつ帰ってくるかなぁ…赤い死刑囚と緑の模範囚…帰ってきたら2人とも殺っちゃっていいんだろーなぁー」

髑髏の面の下、整った容姿に歪んだ笑顔を浮かべる彼は積んだ石に鎌を振り下ろした。

刃こぼれ一つなく石を2つに割る。

そのまま大穴の開いた外壁を更に抉るように鎌を振るった。

ガラガラと音を立てて崩壊する外壁。

「…ところで、君はだぁれー?」

土煙の中から現れたのは、綺麗な桃色だった。

「…ただの、壊れた奴じゃないみてぇだな…」

「ん~?赤い死刑囚にそっくりだね君。お名前は~?」

煙草を吹かしながら苦情を浮かべる桃色。

「っかしいな…俺の仕入れた情報じゃ…アンタもっと大人しい奴だったんだが…」

「アッハハハ!残念、今俺もオレもお休み中~っ」

「は?」

「だからぁ、ボクの他に俺とオレがいるのぉ~」

カラカラと笑いながら桃色に近付く髑髏。

(言ってる事は要領得ないが…要はコイツ多重人格か)

冷静に分析している内に目の前にやってきた髑髏が鎌を首に押し当てた。

「ねぇ…君も殺しちゃっていいのかなぁ?ここにいるなら、いいんだよねぇ?」

「…殺れるもんなら、な」

返事とほぼ同時に鎌を思い切り引く。

 バキンッ

「ぇ………?」

確かに首を通過した鎌は、形を成さない程に崩壊していた。
くつくつと、桃色が嗤う。

「お前の言う赤い死刑囚に似てるんだろ?なら殺れないって…分かる訳ねえか」

「ッ…!」

紅い瞳に殺気を見て、髑髏はその場から飛び退いた。

「…いい判断だが…」

桃色が煙草を落とす。同時に仮面も床に落ちた。

「ちょっと遅かったな」

「く………!」

立場逆転。桃色が髑髏を壁際に追い詰める。
武器を持たない髑髏はなす術なくただ相手の出方を窺うしかなかった。
僅か低い位置から見据えてくる紅い瞳には妙に威圧感があり、捨て去った筈の恐怖が込み上げる。

「ふーん…なぁ、アンタ本当に40代?随分綺麗な顔だけど」

「忘れた…」

「?アンタ、一人称は?」

「…俺」

紅の瞳から威圧感が消え、代わりに好奇心たっぷりの視線を注がれた。

「面白いなぁ、アンタ」

胸倉を掴まれ、引き寄せられる。
首元に埋まった桃色からは、花の様な甘い香りがした。

その香りに陶酔していると、

「…痛ッ!」

ガリ、という音と共に首に激痛。

「決めた。アンタは俺のモノにする」

だから、コレはその印―――

そう甘く耳元で囁かれ、崩壊した筈の感情が湧き上がる。

嗚呼、駄目だ…

「やめてよ…俺を、人に戻さないで…」

お願いだから死神で居させて。

懇願すると、紅い瞳が細められた。

「ハッ…関係ないな



さっさと俺に堕ちろ」




――――――――――
2012.03.07
『桜魔ヶ時』の緋柳 涙様がひなまつりフリーとして配布していたssの桃処!
多分史上初だと思われます是非ともこのキル様に多重人格処刑を堕として頂きたい!
ショケイスキー相手でも俺様キル様な桃処、ご馳走様でした!


↓素敵な緋柳さん宅はこちらから!
桜魔ヶ時