※注意※ 女装緑なので、苦手な方は注意ください。 キレネンコさん。キレネンコさん。 どこへ行くんですか、キレネンコさん。 待ってください、キレネンコさん。
などと悠長な事。
「むっほぉぉぉぉおおおぉぉぉぉーーーっ!」
落ちるプーチンに、考えられるはずがなかった。
Alice In Wonder 2 ―小さな自分とお揃いのとぅいーどる― 巻き上がるような激しい風圧を受けて内臓が上へ上へと引っ張られるのに、体はどんどん下に向かっていく。 とてつもなく高いところからバンジージャンプをしたらこんな感じか―――いや、今は実際にコードレスバンジーをしているのだけれど。 落ちる。落ちる落ちる落ちる。どこまでも、どこまでも、落ちていく。 穴の中は真っ暗で、一体どこまで続いているのか地面なんて見えもしない。当然地面が見えた時点でアウトではある。ぐしゃんっと気の毒な体になってしまうのと延々先も見えず落ちてゆくの、どちらが良いか。ああなんて深い悩みなのだろう―――とかなんとか。そんな事思う余裕なんて、やっぱりなくて。 「むほっ、むほっ、むほぉぉぉおおおーーーっ!!!」 くわんくわんと穴に反響する高らかな悲鳴を響かせながら、プーチンは落ちて、落ちて、落ちて。 つんくつんく。 「……うぅ~……?」 つんつんつん。 「むぅぅー…………」 こしょこしょこしょこしょっ。 「んっ!や、ぁっ……!」
目の前にぱっと散ったお星様に思わず跳ね起きたプーチンは、大きな怒鳴り声に潰されました。 「ふぎゅっ!」 ぺしゃんっ。 比喩でもなんでもなく、文字通り上から降ってきた圧力に潰されてしまった彼は、ばたばたともがきます。 「あ。ボリスさんにコプチェフさん」 見上げた先にはお揃いの服を来た、すっかり顔馴染みのお巡りさん二人が居ました。 『とぅいーどる・でぃー』 と、 『とぅいーどる・だむ』 という、それぞれ名前の書いた紙が張られています。 「うるせぇっ!」 ガオォッ!と吼える声に、またしてもプーチンはころんと転がされてしまいます。その背中をコプチェフがつまみ起こしながら―――どうやら先程起こしてくれたのも彼のようです―――隣で怒っている相棒に、なだめるような表情を向けました。 「ボリスー、声大きいよ」 プーチンを起こした時から若干赤かったボリスの顔が、一気に完熟トマト色になりました。何故ボリスの顔が赤くなるのかプーチンには解りませんでしたが、それよりも。 「あ、あのー……ちょっと、声のトーンを……」 抑えて欲しいんですけど―――上から声がするたび、台風の真っ只中に立たされるお天気キャスターみたいに吹き飛ばされそうになってしまいます。おまけに聞こえる声はとても大きく、鼓膜の耐久限度を試されている気分です。 「うぅっ!ぼ、僕チビじゃないですよぉ~」 ちょっと音量を落としてくれた、呆れた声で「周りを見ろ」と言われたプーチンは素直にキョロキョロ辺りを見ます。 それにしても大きなカップだなぁ―――と、プーチンは思いました。 たっぷりの紅茶が注がれたカップは、そのままプーチンがお風呂として浸かれそうです。お菓子だって、両手でよいしょっと持ち上げるようなサイズ。これを食べる人はきっととても食欲旺盛な人なのでしょう。 「いやいやいや。そうじゃねぇだろ」 のほほんとしたプーチンに、ボリスが鋭く突っ込みを入れます。バタバタ、振られるその手もプーチンから見るととてもとても大きいです。 「だ―――」 ぽふっと。再び吼えかけた相棒の口を塞ぎながら、コプチェフが穏やかに台詞を引き継ぎます。さり気にボリスを引き寄せたその体も、腕の中でもがく相手同様大きく、身長差もそのままです。 大きなティーセット。大きなボリスとコプチェフ。そして自分は―――
「…………僕、なんでスカート履いてるんでしょうか?」 水色のエプロンドレスを摘み上げて衝撃を受けているプーチンに、またしてもボリスが突っ込みました。 ヒラヒラとしたレースのエプロン。 緑ではなく黒と白のストライプなタイツ。 頭の上にはご丁寧にリボンがきゅっと結ばれています。 「あっ!しかも下までちが」
「めくるなーーーっっっ!!!」
「あぁ~、ボリス、手が邪魔ー」 ぺらり、と中を確認するべく捲くられたスカートに、また顔を赤くしたボリスが自分とコプチェフの目を覆います。途端隣から上がった残念そうな声に、紫の頭へボカッ!と拳一つ落とした彼は、裾を持ったままぽやんとしている小さなプーチンに叫びました。 「―――ともかく!そこのクッキー食って、とっととでかくなれ!!」 びしっと指差された先―――紅茶のおとものクッキーを示され、プーチンは首を傾げました。食べろと言われるなら喜んで食べますが、なぜ、大きくなるのにクッキーなのでしょうか。 「いたた……酷いなぁボリス。こんなの浮気のうちに入らないでしょ?」 言うより先に、コプチェフの襟足で束ねた髪をむんずとボリスは掴みます。「長くて覚えられなかったなら、そういえば良いのに」と呟いた紫の頭へ再度拳を叩き込み、本来担当している長くて全く意味のない話をはしょって退場しようとします。『とぅいーどる(以下略)』と書かれた背中を見せて去ろうとする二人を、はたとプーチンは呼び止めました。 「ま、待ってください!キレネンコさんを見ませんでしたか!?」 そうでした。穴を落ちたり小さくなったりドレスを着ていたりですっかり忘れてしまっていましたが、そもそも自分は突然飛び出していった同居人を追いかけていたのでした。きっと先に出た彼もここに来ているはず―――そんな希望的推測を抱いて尋ねたプーチンに、振り返ったとぅいーどる―――もとい、ボリスは顔を顰めました。 「あぁ?あの赤い化けモンか……アレなら走って行ったぜ」 非常に無愛想な言い方になるのは思い起こす対象とあまり馬が合わないから仕方がないのです。代わりにこぶを頭に二つつけたコプチェフが「急がなきゃ、とか言ってたけど」と補足をします。こういうツーカーな所は服以外が似てなくてもばっちりな二人でした。 「急がなきゃ?」 法定速度はオーバーだったのですが、走る足にタイヤはついていないのでキップは切れませんでした。 「大変!早く追わないと!!」 プーチンはとても慌てました。
「僕、行きますっ!」 そう、高らかに宣言をするプーチンに。 「……止めといた方が良いと思うけどなぁ」 容易に想像できる結果に、『とぅいーどる』な二人から揃って生温い視線が送られました。
+++(運狙な)おまけ+++ 「…………」 「……?何、ボリス?」 作戦会議を練っている最中、コプチェフはふと真向かいから感じた視線に刺すものを感じて顔を上げました。 ……そういえばアレ、食べ過ぎると効果が出過ぎるんじゃなかったっけ? と、うろ覚えな知識が頭を過ぎったのですが、それはさておき。 「……何笑ってんだよ」 ちなみにパーシャルジャケット弾の方が着弾後に弾頭先端が変形して破壊力を増す構造になっており、対象への苦痛を与えられるのでお勧めの仕様です。 「すでにハートが狙い打ちされてるから十分かなー」 爽やかな笑みを浮かべて弾丸どころか核弾頭を投下しようとした紫の頭に、ゴリゴリ銃口が押し付けられます。額に青筋を浮かべているボリスの指は今にも引き金を引いてしまいそうです。 「大丈夫―――俺が見るのは、ボリスだけだよ」 騙されてる―――絶対に、騙されてる。
: ―――――――――― 2010.6.6 日記再録。イメージは巨匠からの頂き物イラストです。むしろそっちだけで話完結できます。 それにしても男組は思考が皆 |